「芸人として事務所に所属しているんですが、人気が出なくて、面白くなれるカクテルってありますか?」

「ありますよ。意外性と面白さって紙一重なんですよね。今日は見た目も珍しいカクテルをお出しします。カクテルというのは様々なものが混じりあってひとつになった飲み物です。芸能の世界を目指すならば、こちらのカクテルをお勧めしますよ。かき氷の上にカクテルを混ぜ合わせて色を付けています。かき氷のレインボーカクテルです」


「笑いは一瞬、面白さなんて一瞬です。だから、笑いはすぐとけてなくなってしまう氷に非常に酷似していますよね。色がきれいだと思ってもすぐに混ざり合ってしまいます。混ざり合ってしまうと本当の味はわからなくなってしまいます。でも、結果的においしければいいんです」

「つまり、あと味がよければ、笑いもおいしいってことですかね」
「面白さなんて目で見ることはできないですからね。でも、人によって味の好みがあるように笑いにも好みがあります。おいしいと感じてくれる人が多いものが一般的に言うおいしいという食べ物ですからね」


「意外性と斬新さで勝負してみます」
「誰もまだ開拓していないことをやってみることも、目を引くことになりますからね」
 お金を支払うと男は足早に走り去る。

「神酒さんってなんでこの仕事しているんですか?」
 二葉が聞く。
「人間が好きだからですよ」
「意外、神酒さんって人間が好きなイメージないんですけれど」
「どんな偏見ですか」
 神酒は相変わらず口元だけ口角が上がっているが、目は笑っていない。

「カクテルひとつで人生を変えちゃう神酒さんが凄いですよ」
「他人の人生を変えるのが面白くて、創作カクテルを日々開発することが生きがいというのが本音かもしれません」
「やっぱり、そっちのほうが神酒さんぽくてしっくりくるなぁ」
「でも、なんで私のことを雇ってくれたんですか?」
「君は私と同じくらい人間を変えることが好きなのではないかと思ったからですよ」
「そうなんですか? 私の容姿がかわいいから弟子入りさせてくれたのかと思ってましたよ」
「強引な二葉さんの弟子入りのお願いを断れそうもなかったというのが本音です」
「少しくらいかわいいって思ってくださいよ」
「思うように努力します」
「神酒さん、ひどーい、まるでかわいくないと言っているようなものじゃないですか」

 二葉が成長していつか創作バーテンになったらどんなカクテルを創るのだろう? 神酒は今後どんな幸せのお手伝いをするのだろう。神酒のカクテルは無敵かつ最強だと思うのだ。そして、神酒さんを振り向かせるカクテルをいつか完成させようと二葉は思う。

「一緒に飲むと両思いになるカクテルを創りました。私も飲みます。二葉さんもいかがですか」
 どういう意味だろう。これを飲んだら両思いということ? 甘い香りに誘われて二葉は飲んでみる。同時に神酒も飲む。あれ? 何も変わらない?

「つまり、元から我々の想いは一緒ということです」
 神酒がほほ笑んだ。