うちのバーに来るお客様にはいい人がいない誰かいたら紹介してと言ってくる若いお客様がいます。
恋愛対象であり年齢や容姿や性格が自分にとって、いい人っていうことですよね。年齢性別問わなければ、わりといるのではないでしょうか。しかし、彼らが言ういい人は恋愛、結婚対象にしてのいい人なのです。
今夜訪れたのは、美しい大人の雰囲気の女性です。
「私、この店はじめてなの。どんなカクテルがあるの?」
「星空とガラスのくつってちょっと気になるかも」
「今、あなたはいい人がいないということで悩んでいますよね?」
「あれ? わかります? いい人がいたら是非ご紹介を!!」
「あなたにとってのいい人という基準が他人には曖昧過ぎてわかりにくいですよね。もっと具体的におっしゃってください」
「性格が良くて、服のセンスがそこそこ良くて、優しい人」
「これもわかりにくいですね。性格がいい、優しいというのは抽象的です。服のセンスだって人によって良いの基準は違いますし」
「じゃあ、マスターみたいなイケメンな男性で、収入が安定していて、学歴が高い人」
遠慮がちだったがかなり具体的な表現だ。
「星空とガラスのくつというカクテルを飲むと、あなたの思ういい人に出会える可能性が高くなるかもしれませんよ。シンデレラみたいに出会った人にひとめぼれできるカクテルなのですよ」
「運命の出会いですか?」
女性は目を輝かせる。
「ごちそうさま」
「お幸せに」
女性は支払いを済ませると、ハイヒールをコツコツ響かせながら歩く。
「マスター、あのカクテルはどんな効果があるんですか?」
アルバイトの女性、二葉が訪ねる。
少し間を置いて神酒は口を開く。
「あのカクテルは理想を落とすんです」
「え?」
「理想を低くするということです。だから、すぐに理想の相手がみつかるんですよ。いい人がいないという人は、いい人の基準を下げないとだめだということです」
1週間後、彼女は幸せそうに男性と共にバーを訪れた。そして、感謝の言葉を述べた。
「理想的な男性に出会えました。とても幸せです」
彼女の隣にいる男性は、見た目は地味でイケメンではないが、とても誠実そうで堅実な印象だった。
外見にばかり惑わされていると本当に良いい人に出会っていても逃していることがあるのです。外見に対する価値観を少し落としただけで、出会いの幅は大幅に広がるということなのです。好きという気持ちは実に不可解ですね。