普段の私ならきっと「仕事だからしょうがないか」と、ため息1つくらいはついただろう。
だけど、この日の私は「社長が誘ってくれた」というだけで、 今までにないようなわくわくした気持ちになった。
他のメンバーが誘ったてきていたら、間違いなくこんな風には思わなかった。

この会社の最初にして最後の飲み会だったので、どんな雰囲気になるのか、私は実は知らなかった。
これがまあ……酷い。
この会社は、わざと酒癖が悪い人を集めたのだろうか。
泣きながら恋人の愚痴を言う人。
こんこんと、説教ばかり壊れたからくり人形のように繰り返し呟く人。
何が面白いのかにもわからない話題に対してもケラケラケラケラ笑ってい人。
そんなカオスに巻き込まれるのが嫌だった私は、配られた紙コップに注いだ、唯一飲める梅酒をちびちび口にしながら、どうにか傍観者でいられる努力をした。

社長は、私とは正反対の位置に座っていた。
落ち着いた物腰で、ただひたすら、一本のワインをずっと飲んでいた。
よっぽどそれが気に入ったのだろうか。
社長はそのボトルを誰とも共有せず、少し注いではじっと眺め、一口飲み、社員の話を聞いて、笑って、一口飲む。
そんな、丁寧に味わうようなの飲み方をしていた。
他の人間が激しい飲み方をしていたせいもあるのだろう。
余計に、そんな彼の姿が目立った。