顎を引き寄せられたと思うと、社長がキスをしてきた。
私の言葉を遮るような、宥めるような激しくも優しいキス。
そして、そっと唇を離すと大きなため息を溢す。

「あの人は、僕の経営を手伝ってくれてる人で……小学生のお子さんがいるんだ」
「……え?」
「だから、あの人と僕がどうこうなるとかは……ないんだけど……」
「え、でも楽しそうに笑って……」
「実は、仕事がひと段落ついたんだ。大きな契約が今日終わって」
「え?」
「それで……言われたんだ……『やっと彼女さんに会いに行けますね、あーうらやましい』って……」
「嘘……」
「そんな時だよ、君が去っていくのが見えたのは……どうしたんだろうとは思ったけど……」
「誤解……だったの?」
「ごめん。君なら何も言わなくてもわかってくれるって、甘えてた」

返事をしないと。でも、声にならない。涙がこぼれて止まらないから。
ようやく欲しかった言葉をくれたから。

「今日は……ゆっくり話そう。雨が止むまで」
「……今日だけ?」

私は、ふてくされた声で言う。

「……今日も、かな」
「じゃあいつまで……?」

彼がもう1度キスをしながら

「これから相談しよう。だから……君に嫌われない方法を教えてくれないか?」

雨はまだ、止みそうにない。