それはそれは、幸せな光景だった。見ているこちらまで幸せな気分になってくすくす笑う。できることならこのふたりをずっと見ていたいと思ったけれど、それは「俊允ちゃーん、いてはるー?」という近所のおばさんの大声によって阻止された。
意識が一気に浮上し目を開けると、ちょうど俊允さんも起きたところだった。どうやら寝転がって話をしているうちに、ふたりして眠ってしまっていたらしい。
勢い良く起き上がった俊允さんは、まだ横になっているわたしを見下ろして「夢を見ました」と言った。
「どんな?」
「幸せな。僕らの前世が、寄り添って言い争ってました」
そしてどうやらわたしたちは、同じ夢を見ていたらしい。
「あれは言い争ってたんじゃなくて、いちゃついてたんですよ」
言うと俊允さんは驚いて目を見開いたけれど、すぐに同意し頷いた。
「それより俊允ちゃん、呼ばれてますよ」
「……あなたまでそないにいけずを……」
「ふたりに倣って、往生させたいんです」
「なんぎな人や」
俊允さんは涼やかな目を細めて笑うと、立ち上がりながらわたしの頭を優しく撫でて、店へと出て行った。わたしは幸せを噛み締めながら、のろのろと起き上がる。
わたしは前世の記憶も夢の情報もないし、あの髷の男性のことも、煌びやかな着物の女性のこともよく知らない。なんなら数日前に出会ったばかりの俊允さんのことも、まだよく知らない。けれど確実に、彼に惹かれている。彼の日だまりのような優しさと穏やかさに、心が均されていくのを感じる。もっと彼のことが知りたいし、触れたい。
時代は変わった。もうあのふたりが生きた動乱の時代ではない。だからこうして平和な時代に生まれて、彼と出会えたからには、あのふたりができなかったことを何でもしていきたいと思った。
まずは立ち上がって、彼の元に駆けて行くところから始めよう。
(了)