やがて横の壁から、音声案内が流れ始める。不安と恐怖に押しつぶされそうになっていたわたしは、その音声の意味を半分ほどしか理解できなかった。

「人間証明書を紛失した者は人間として認められない」
「たった一枚の証明書の管理すらできない者は、それよりも簡単で、それよりも難しい仕事に従事する」
「今の段階ではロボットにはできない仕事である」
「それは生殖活動により子孫を増やすことである」
「特に絶滅の危機に瀕した動物たちにとっては急務である」
「我々は身体を作り換える技術はあっても、命を作る技術はまだ手に入れていない」

 上手く頭が働かず、音声案内が話す内容と、自分がこの巨大装置に入れられていることが、なかなか結びつかない。
 混乱の中にいるわたしに構うわけなどない音声案内は最後に、これからわたしがすべきたったひとつの仕事内容を告げた。

「人間証明書の紛失者は動物の身体に作り換えられ、動物として、多数の子孫を残すという最も簡単で最も難しい仕事に、生涯従事することとする」

 音声が止まり、巨大な装置がゴウンゴウンと本格的に唸り出す。