春。
出会いと別れの季節。全ての始まりの季節。

そして、全ての騎士候補の貴族の子女のハレの日――ロイヤルナイツアカデミー入学式。

私は。
盛大にトラブルに巻き込まれていた。



 *



――事の発端は入学式直後にまで遡る。

私は新入生総代、つまり主席入学者として挨拶を終えたジークレインに絡まれていた。
久々に顔を見た瞬間から、ジークレインは不機嫌オーラ全開で、文句をつけてきたのである。


「意味がわからない。なんでお前が主席じゃないんだ」
「知るか」

意味がわからないのはこちらの方である。

不機嫌オーラ全開のジークレインに対する私も不機嫌オーラ全開であった。
式を終え、寮分けが済み、各寮ごとに行われる新入生歓迎会まで時間があるということで、フェルミナと一緒に学内にあるカフェテリアで昼食を摂ろうとしていたところだったのだ。それを邪魔されたのだから不機嫌にもなろう。

「俺はたしかにいい戦いをしたと思ってる。相性がいい相手だったとはいえ、二級騎士をうまく翻弄し、押していたとさえ思う」

ジークレインは海老のビスクとパンを載せたトレーを、私とフェルミナの座っているテーブル席に置きながら言う。
おい待て。何を勝手に割り込んできている。しかもなぜ勝手に同じテーブル席に座ろうとしている。

「だが、全受験生の中でも、二級騎士を降したのはお前だけだった」

しかしフェルミナは何も言わず、むしろニコニコして場所を開けている。その様子を見て更にジークレインへの苛立ちを募らせながら、私は深い溜息をついた。

「降していないからこそ次席になった。お前も見ていただろう? 私が失格になった瞬間も」
「あれは攻撃の余波で立っていた位置が後ろにズレただけだろ!」

その通り。
だが失格は失格である。

「私は手元を狂わせ、自分の攻撃のコントロールもろくにできず、余波を自分で受けてしまったんだ。それはつまり未熟の証、お前が主席入学なのは正当な評価だよ」

兄は私が近衛騎士隊を目指すと言えば嫌な顔をし、約束を反故にするかもしれないが――全ては姉とフェルミナの命を奪わんとする者の情報を掴み、先回りして不穏分子を叩き潰すためだ。

進路希望は敢えて隠して、勝手に近衛騎士としての道を歩めばいい。

女子禁制の近衛騎士隊に入ることは勿論、簡単ではないだろうが……まあ最悪、男装でもして身分を偽ればいい。
私がいた時の近衛騎士隊では、団長は戦犯貴族であろうが使えれば子飼いにしていた。割と無法地帯の暗部だったので、男の振りをした上で、力を示せば入隊自体はなんとかなるように思える。

「だが……俺は納得できない」
「そうか。なら勝手に悩んでいればいい」

苦虫を噛み潰したような声で言うジークレイン。
そう、勝手に悩んでいればいい。そしてできれば今すぐここから去れ。

「ジークレインくんもロディも、本当にすごいね。わたしも頑張ってもっと強くならなきゃ」
「フェルミナならきっとなれるよ」

私は頬を緩めて言う。

それは願いでもあったが、本心だった。『前回』でもフェルミナは優秀だったが、『今回』のフェルミナは更に優秀だ。
それがジークレイン(こいつ)との約束のお陰かもしれないと考えると噴飯ものではあるが。
すると何故かジークレインがひどく微妙な感情を乗せた瞳でこちらを見ていることに気がつく。

「……なんだ、イグニス」
「お前……フェルミナと俺で態度が違いすぎないか?」