西條さんが三輪さんにとあるお願いをしてから、僕たちはいったん解散することになった。朝からいろんなことがあって皆疲れていたし、今日はゆっくり寝てまた落ち着いたらみんなで集まろうということになった。
「恭太、良かったのかい?」
帰り道、女性陣と別れてから学が僕に聞いてきた。なんのこと? と僕はすっとぼけるフリをした。
「西條さんだよ。彼女は奏じゃなくて華苗だった。君は、奏に恋をしていたんじゃないのかい?」
なんということだ。僕が西條さんへの恋情に気がついたのはついこの間のことで、もちろん学にもまだ伝えていない。それなのにやつが知っているとは、そんなに態度に出ていたんやろか。
「分かりやすいんだよ、恭太は。わいのことを舐めてもらっては困るな」
「……お見それいたしやした」
学はフン、と鼻を鳴らす。この三年半、学とくだらない恋愛論争をしたり怠惰な大学生活を共にしたりするうちに、学とはある種の共鳴のようなものを覚えていた。だから彼にはすべてを話さなくても僕の考えが伝わってしまう。僕が西條さんに恋をしていないと考える方が難しいとでも言うように。
「わいは恭太に幸せになってもらいたいと思っているのだよ、これでも」
いつになくしおらしい台詞を吐く学。雪が止んで凍ってしまった地面に滑りそうになっていた僕は思わず耳を疑った。
「そっか……。なんや、ありがとう」
学は学なりに、今回の件について思うことがあるのだろう。
好きな人が、実は別の人物だったという僕の恋心の置き所を案じてくれているのだ。しかし、これについてはもう、僕の中で答えが出ている。
「僕は、西條さんが奏だろうと華苗だろうと関係ないと思ってる。西條さんは西條さんだよ。僕たちが出会った彼女は変わらな
い。真面目で、友達思いで、姉妹思いで、恋人が欲しいと願って止まない。そんな彼女と、僕はもっと近づきたいと思ってるんや」
暗闇の中でたった一筋の光を見つけたかのように、学は僕を見て目を見開く。気を抜くと凍った地面に足を取られてしまいそうになりながら、僕たちは光の差す方向へと進む。もしかしたら時々迷子になってしまうかもしれない。怖くて腰が引けてしまうかもしれない。だけど、手を伸ばして手に入れたいものは決まっている。
百点満点の恋じゃない。それは——
「僕は彼女の笑顔が見たい。ただそれだけや」