私の元へ女性警官がやってきて、ガチガチに結ばれていたロープを解いてくれた。
「もう大丈夫よ」
「ありがとうございます」
その場にへたり込んで震える私を、優しく包み込んでくれる人がいた。
「西條さん、助かってよかった……!」
安藤くんが、警察の人がかけてくれた毛布の上から私の肩を抱きしめる。恋人でもない男の子にそうされるのは恥ずかしいはずなのに、素直に受け入れている自分がいた。
「ありがとう……安藤くん」
「警察が来るまでの時間稼ぎやってん。うまくできひんかったけど、間にあってよかった」
「うん」
ありがとう、と何度口にしても足りない気がして、私は彼の背中にぎゅっと手を回す。
彼の身体が一瞬ぴくりと動く。けれど彼は身を避けることなく、私を抱きしめる腕に力を入れただけだった。
しばらくそうしていると、「カナ!」と愛しい人の声がしてハッと安藤くんから離れる。彼も知り合いに見られるのは恥ずかしいらしく、ばっと身体を離した。
「つばき、それに御手洗くんも」
地下室の入り口に、息を切らしたつばきと御手洗くんが並んで立っているのを見て、安堵で涙が出そうになった。
「おや、もしかしてお取り込み中だったかい?」
「そんなんやない! しかし二人とも遅いねん」
「仕方ないだろう。だが、君の指示通り警察に通報したんだし、もっと褒めてくれてもいいと思うけれどね」
「く……確かに、二人の協力のおかげで西條さんを助けられたわけやし、ありがとう」
どうやら安藤くんが私を一刻も早く見つけ出してくれている間に、つばきと御手洗くんは裏で警察を呼んでくれていたらしい。私は三人に助けられたのだ。
「カナ……昨日から連絡が取れなくなって心配したんだからっ。でもよかった、無事で」
今度はつばきが躊躇なく私に抱きついてくる。私は、つばきの温もりを感じながら「ごめんね」と彼女の背中をさすった。
「つばき、私思い出したの。私は奏じゃない。私、華苗だったんだね。つばきはそれを知っていたんでしょう?」
私がそう告白すると、つばきはガバッと身体を起こし、私の目を見つめた。その目が、丸く大きく身開かれ、どうして、と聞いている。
「つばきはずっと、私が華苗であると知ってて周りにも私自身にも隠してた。どうして教えてくれなかったのか、聞いてもいいかな?」
そばで私の話を聞いていた安藤くんと御手洗くんの口があんぐりと開かれる。一体どういうこと? と不思議に思っていることが分かる。私自身、分からなかった。どうして私はこの半年間、自分を奏だと思い込んでいたのか。その答えは親友であるつばきが知っている気がしたのだ。
つばきは震えながら深く息を吐いた。そして、
「分かったわ、ナエ」
と真っ直ぐに私を見て頷いた。