「ははっ。君はいいよねえ! 君は、君たちは、京大生や東大生はみな! 恵まれた頭脳を持って生まれてきたんだ。僕はね、成功者が大っ嫌いなんだ。成功者、君みたいに顔がよくて頭もよくて、YouTubeでも成功しているような人たちがね! だからそんな君たちに、絶望を味わってもらう!」
ガン、と彼が私の座っている椅子を蹴る。その勢いにひぃっと思わず悲鳴が漏れた。
次の瞬間、予備校の映像が切り替わり、画面が真っ暗になる。いや、正確には月明かりだけが映像に写しだされていた。
『え、誰? え?』
『きゃあっ』
『何すんのよ! あんた誰?』
画像の中で、女の子の悲鳴が何度も聞こえてきた。まるで昨日突然ユカイに襲われた私のように。月明かりの下、女の子が振り返ったとたん、画像が暗転しガサガサとしたノイズがした。
『僕は君を、いや君たちを許さない——』
『きゃああああ』
機械音のような不気味な声にすさまじい悲鳴がして、私は思わず目を塞いだ。本当は耳も塞ぎたかったけれど、手が縛りつけられているので無理だった。後ろにいるユカイは物音も立てずにじっと息を潜めている。彼の動く気配がまったくないことに、さらに言いようもない恐怖を覚えた。
映像は何度も切り替わり、その度に違う女の子の声がした。
これは全部、ユカイがしてきたことなの?
どうして私にこんな映像を見せるの——いや、考えなくても分かる。彼は自分が女の子たちを襲う映像を見せることで、私をジリジリと追い詰めるつもりなのだ。お前もこうなるぞ、と彼が語っている。
信じられない。彼がこんなに多くの女の子たちを襲い、その様子を映像に残していること。そしてその映像を今流していること。
常人のすることじゃない……この人は、異常だ。
恐怖で涙がこぼれそうなのをぐっと堪える。私が泣き叫んだりしないことに不満を覚えたのか、彼はもう一度私の椅子を蹴って、次の動画を流し始めた。
今度は先ほどの映像とは違い、昼間の映像だということに驚いた。しかもこの風景、見覚えがある。
そこに映し出されているのは紛れもなく鴨川だった。
カメラは川沿いの道を歩くとある人物の後ろ姿を捉えてから止まった。
『君、もしかして奏ちゃん?』
『え、ええ』
『やっぱり! 君とずっとやりとりしていたユカイです』
『ああ、ユカイさん?』
一瞬、映像の中で何が起こっているのかわからなかった。
昨日(なのか今日なのか分からないが)の夕方に出町柳駅でユカイと待ち合わせをしていた自分の映像かと思ったが、場所が違う。明るさも夕方ではなく、昼間のようだ。それなのに画面には私が映っている。いや、でも私には身に覚えがない。ということは、映っているのは華苗? だけどユカイは「奏ちゃん」と呼び掛けた。華苗は私に内緒で「奏」という名でマッチングアプリを使っていたということ……?
「これ、どういうことなの……」
「……」
私の疑問に彼は答えない。そのまま映像を流し続けた。
『奏ちゃん、もし今日空いてたら遊びに行かない?』
『うーん、今日はちょっと……』
戸惑う華苗の顔がアップになる。
お洒落をしてきたのか、いつも前に垂らしている前髪を横に流し普段より大人っぽい。
その顔を見て衝撃的なことに気がついた。
華苗の前髪の生え際にあるはずのほくろが、ない。
私と華苗を唯一見分けることのできる目印とも言えるほくろ。普段は前髪に隠れているので、知っている人は家族と親友であるつばきだけ。
そのほくろがない……?
「どう、して」