私が逡巡していると、安藤くんが「大丈夫だよ西條さん」と声をかけてきた。

「こいつ、三輪さんのことが好きなんだ。全力で三輪さんのことを守るって」

「なっ———」

 カモミールティーをブッと吹き出し、声を上げたのは私じゃない。もちろん御手洗くんだ。

「ちょ、おま、なんてことを……!」

「そうだったんだ」

 個人情報を暴露されまくりな御手洗くんの慌てぶりを見て、私はこの人なら確かにつばきのことを話しても真剣に聞いてくれるだろうと確信した。

「御手洗くん、実はね、ナナコさんがつばきの彼氏、神谷真斗の浮気相手である可能性が高いの——」

 というか、あれは完全にクロだ。
 しかし人間、つい心に余裕がなくなると偏った考えをしてしまうことがあるので、念のため“可能性”に留めておく。

「なるほど……それで一条さんのことを聞いてきたわけだね」

「ええ。つばきは最近神谷くんと関係が上手くいっていないことに相当悩んでる。神谷くんが単に忙しくてつばきに構ってないだけなら許す余地もあったの。でも彼、たぶん浮気してる。つばきはクリスマスイブに神谷くんと今後のことを話し合うつもりで、いま不安でいっぱいなの」

「そうや、そこで今回の作戦。神谷真斗に先手を打たれないように、三輪さんの方が先に彼の弱みを握る。そうすれば三輪さんは神谷くんに先に傷つけられずに済むってこと。どう?」

 安藤くんがここに来る前に、私に「いい考えがある」と言ったのはこれだ。
 確かに頭のいい神谷くんのことだ。つばきに浮気がバレたときに備えて言い訳を用意していることだろう。彼に言いくるめられてしまえば、またつばきの心が揺れてしまうかもしれない。
 でもダメなんだ。浮気をして弁明するような男に絆されてこのまま付き合い続ければ、いずれつばきが破滅する。何度でも言うけれど、私は親友が傷つくところを見たくない。
 安藤くんの作戦を聞いた御手洗くんは、「うむ」と顎に手を添えて状況を整理している様子だった。

「分かった。もし西條さんが嫌でなければ、三輪さんに一条さんのことを話すのはわいにやらせてほしい」

「え?」

「他人から聞いた話より、一次情報としてわいが実際に体験したことを話す方がよりリアルに響くだろう。三輪さんに一条さんの存在を明かし、その本性をバラす。そこから神谷真斗を懲らしめる材料にしてもらう」

 そう言う御手洗くんの目は、好きな人を傷つける者への恨みでギラギラと燃えていた。