「本当に? 神谷くんってつばきのこと大好きだったじゃん」
「それは最初の話よ。ここ最近はずっと私の方が好き度が大きかったし」
「え!」
照れながらもそう言うつばきはいつもより女の子らしい気がする。普段は姉御肌な彼女も恋人のことになれば普通の女の子というわけだ。
「そうだったんだ。なんか意外だな」
「そう? 今まで気づかなかったの?」
「はい、気がつきませんでした」
「まったく、カナは鈍チンね」
「うう……」
恋愛に対して鈍い、と言われたのは初めてだ。自分では敏感なつもりだったんだけどなあ。
「そんでさ、どうしたら真斗が前みたいにあたしのこと追いかけてくれるのかって話よ」
ここで店員さんがミートドリアとマルゲリータを運んできた。
「ありがとうございます」
もう何回目かになるマルゲリータを、つばきは「美味しそう」などと感激する間もなくかぶりつく。私もつばきの勢いに呑まれてミートドリアを口に運ぶ。しかし、モウモウと湯気を立てるドリアは予想外に熱く、「あつっ」とすぐに口からスプーンを離す羽目になった。
「大丈夫? 気をつけなよ」
「はーい……」
小学生みたくシュンとした私を見てつばきは小さく微笑む。よかった、まだ笑う余裕はあるんだ。つばきが恋愛で傷つくところなんて想像したくなくて、つばきの笑顔にほっとする。
「つばきはいつから神谷くんと付き合ってるんだっけ?」
「一回生の秋から。だから今ちょうど3年ってとこ」
「そっか。“3の倍数は危ない”って聞くもんね」
「まったくその通りすぎて何も言えないわ」
恋愛において、三ヶ月や半年、三年といった「3の倍数」期間に破局の危機に陥りやすいというのは有名な話だ。単純に付き合い始めてマンネリ化し始める時期がちょうどそのくらいなのだろうけれど、まさにこの危機を体現したような二人の関係が不憫に思えてきた。
「神谷くんって最初、本当につばきのこと本当に大切にしてる感じだったから、その彼がまさかつばきのこと放っておくような事態になるなんて思ってもみなかったよ」
「それ、あたしが一番思ってる」
「そうだよねー……」
ふうふうと息を吹きかけて、ようやく食べられるくらいの熱さになったミートドリアを口に運ぶ。ジューシーなお肉とトマトの香りが鼻の奥を突き抜ける。つばきが本気で恋愛相談をしてきている際に呑気に料理を味わって申し訳ないが、やっぱりこの店のミートドリアは一味違う。
「あんまりこんなこと言いたくはないんだけどさ、もしかして他に好きな人ができたり……そういうことはない?」