「お待たせ〜」
カフェにたどり着くとつばきはすでに席に座っていた。ランチからディナーまで揃うこの店は、一回生の頃からの御用達だ。価格もそれほど高くないので大学生の私たちでも入りやすかった。
「お疲れ。何食べる?」
「ちょっと待って」
何事もテキパキとこなすつばきは余計な雑談もせずにメニュー表を私の前に広げた。私は、メニュー表を開かなくても大抵のメニューは把握していたのだが、念のため新しい料理が出ていないか確認する。どうやらメニューは今までと同じらしい。となれば頼む料理は決まっていた。
「ミートドリアにする」
「おけ〜」
この店のミートドリアはお肉がジューシーで、チーズがたっぷりかかった私好みの味だ。人によっては味が濃すぎるのかもしれないが、私にとってはちょうど良い味付けで何度でも食べたくなる。
「つばきは何にするの?」
「あたしはマルゲリータ」
つばきは大のピザ好きだ。メニューにピザがあって、他のものを頼むわけないか。
「今日は神谷くんはいいの?」
つばきの彼氏、神谷真斗は私の知っている限りではかなりつばきに惚れ込んでいて、二人で会う頻度も他のカップルたちに比べるとかなり多いなと感じる。もっとも、当事者たちにとっては自然な頻度かもしれないけれど。
「うーん、そのことなんだけどさあ……」
つばきはため息をついてお冷やを一口飲む。もともと今日一緒に夜ご飯を食べようと誘ってきたのはつばきの方だった。なるほど、神谷くんについて何か相談があるのだと悟る。
「最近会ってくれないんだよねえ」
「え、珍しい」
「この間のNFだって断られたの知ってるでしょ」
「NF? あれ、そうだっけ」
「また忘れたの?」
「うん。NFに行った記憶がないんだよねえ」
安藤くんといいつばきといい、私がNFに来ていたと言っている。それなのに私自身にはその記憶がない。最近物忘れがひどいとはいえ、NFに行ったこと自体を忘れるなんて、我ながらどれだけ忘れっぽいんだよとツッコミたくなる。
「まあカナが忘れっぽいのはいいとして、とにかくその日はもともと真斗とNFを回る予定だったのよ。それなのに急に『やっぱり今日は行けない』って連絡が来てさ。だからカナのこと誘ったんじゃない。覚えてないの?」
「そう言われればそうだったような気もする……」
チカ、チカ、と頭の中でぼんやりとした光が明滅する。NFの日の朝、確かにつばきから連絡を受けた気がするのだ。朝、今日は一日家でゴロゴロするかと意気込んでいたところLINEの通知が鳴った。誰だろうと不思議に思って開いてみると、つばきからメッセージが一件。確か、『真斗に急用ができたらしい。今日一緒にNF回れない?』だった。そうだ、思い出した! 人から聞いた話で記憶が紡がれていくなんて、人体の不思議としか言いようがない。
「とにかくNFもドタキャンされちゃって。その三日前も映画デートしようって約束してたのに大学でやることあるからって断られたのよ。そんなに忙しい人じゃなかったのにここ一ヶ月くらいずっとそんな感じ」
つばきはまた「はああ」と大きく息を吐き、今度は頬杖をついた。つばきの声にいつものハリがない。彼女に元気がないなんて珍し過ぎて、神谷真斗との一件がかなり深刻なものであることを物語っている。
カフェにたどり着くとつばきはすでに席に座っていた。ランチからディナーまで揃うこの店は、一回生の頃からの御用達だ。価格もそれほど高くないので大学生の私たちでも入りやすかった。
「お疲れ。何食べる?」
「ちょっと待って」
何事もテキパキとこなすつばきは余計な雑談もせずにメニュー表を私の前に広げた。私は、メニュー表を開かなくても大抵のメニューは把握していたのだが、念のため新しい料理が出ていないか確認する。どうやらメニューは今までと同じらしい。となれば頼む料理は決まっていた。
「ミートドリアにする」
「おけ〜」
この店のミートドリアはお肉がジューシーで、チーズがたっぷりかかった私好みの味だ。人によっては味が濃すぎるのかもしれないが、私にとってはちょうど良い味付けで何度でも食べたくなる。
「つばきは何にするの?」
「あたしはマルゲリータ」
つばきは大のピザ好きだ。メニューにピザがあって、他のものを頼むわけないか。
「今日は神谷くんはいいの?」
つばきの彼氏、神谷真斗は私の知っている限りではかなりつばきに惚れ込んでいて、二人で会う頻度も他のカップルたちに比べるとかなり多いなと感じる。もっとも、当事者たちにとっては自然な頻度かもしれないけれど。
「うーん、そのことなんだけどさあ……」
つばきはため息をついてお冷やを一口飲む。もともと今日一緒に夜ご飯を食べようと誘ってきたのはつばきの方だった。なるほど、神谷くんについて何か相談があるのだと悟る。
「最近会ってくれないんだよねえ」
「え、珍しい」
「この間のNFだって断られたの知ってるでしょ」
「NF? あれ、そうだっけ」
「また忘れたの?」
「うん。NFに行った記憶がないんだよねえ」
安藤くんといいつばきといい、私がNFに来ていたと言っている。それなのに私自身にはその記憶がない。最近物忘れがひどいとはいえ、NFに行ったこと自体を忘れるなんて、我ながらどれだけ忘れっぽいんだよとツッコミたくなる。
「まあカナが忘れっぽいのはいいとして、とにかくその日はもともと真斗とNFを回る予定だったのよ。それなのに急に『やっぱり今日は行けない』って連絡が来てさ。だからカナのこと誘ったんじゃない。覚えてないの?」
「そう言われればそうだったような気もする……」
チカ、チカ、と頭の中でぼんやりとした光が明滅する。NFの日の朝、確かにつばきから連絡を受けた気がするのだ。朝、今日は一日家でゴロゴロするかと意気込んでいたところLINEの通知が鳴った。誰だろうと不思議に思って開いてみると、つばきからメッセージが一件。確か、『真斗に急用ができたらしい。今日一緒にNF回れない?』だった。そうだ、思い出した! 人から聞いた話で記憶が紡がれていくなんて、人体の不思議としか言いようがない。
「とにかくNFもドタキャンされちゃって。その三日前も映画デートしようって約束してたのに大学でやることあるからって断られたのよ。そんなに忙しい人じゃなかったのにここ一ヶ月くらいずっとそんな感じ」
つばきはまた「はああ」と大きく息を吐き、今度は頬杖をついた。つばきの声にいつものハリがない。彼女に元気がないなんて珍し過ぎて、神谷真斗との一件がかなり深刻なものであることを物語っている。