エイムズとイーサンの会話はまるで、遊びにいく約束をするかのように、楽しげだった。

僕はドアの前から、思わず後退りした。

まさか、二人が罪のない人たちの命を……。そして今夜、シスターマリーを……狩る……?

僕は、少し間を置いて、深く深呼吸してから、ドアをノックした。

「やぁ、ゼイン」

エイムズが、ドアを開けながら、綺麗な瞳をにこりと細める。

「あの、もしかしたら、夕食の時間かと思って」

と、僕は、口ごもった。

「もうそんな時間か、お腹減ったかい?」

イーサンが、笑顔で答えた。

──食堂は、少し時間が、早かったせいか空いていて、僕らはすぐに、今日のメニュー、ビーフシチューを平らげる事ができた。

お腹が満たされると、イーサンが、

「ゼイン、今日は、もう部屋に戻って休むといい。あの部屋には、簡易シャワーもある。すべて一人占めできるよ」

と言って、僕らは席を立った。

部屋に戻った僕は、軽くシャワーを浴び、明日の準備をしながら、頭の中を整理した。

狩りの話、セルジュ子爵が父親であり、シスターマリーが母親であるという事、管理人のハイデンが、そのマリーを愛しているという事……。

その時、コンコンとノックの音が響いた。

「ゼイン、僕だよ」

ドアを開けると、イーサンが立っていた。僕に、カップを差し出して、眠れるようにと、ホットミルクを差し入れてきた。

そうだ。そんなことも話していた。

「ありがとう、兄さん」

僕は出来るだけ平静を装って、おやすみ、と、微笑んだ。

ホットミルクはすぐに洗面所に捨てた。

胸は高鳴りっぱなしだ。

僕は、電気を消して、ベッドに横になると、ぎゅっと瞳を閉じる。

これから、始まるんだ。

どの位、瞳を閉じていただろう。部屋のドアがカチャリと開く音がした。

真っ黒なフード付きのジャケットを羽織った二人組を、カーテンの隙間越しから差し込む月明かりが、照らす。

忍び込んできた二人は、慣れた手つきで、壁際の床板を外すと、地面に非常用の縄梯を下ろして降りていく。

二人が、出ていったのを確認し、僕も後を追った。

彼らが向かうのは、シスターマリーのいる孤児院だ。シスターは、宵の鐘の音と共に、外に出て、門へ鍵をかける。

──宵の鐘の音が響いた。 

修道院の中庭を歩くシスターに、黒い影が襲いかかった。

二人組の片方が、ロープを取り出すと、シスターの細い首を締め上げた。

どさりと鈍い音と共にシスターマリーは、地面に崩れこみ動かなくなる。
二人は、勝利の証とばかりに、互いに見つめ合い、口づけを交わした。

茂みに隠れて一部始終を観ていた僕は震えが止まらなかった。

エイムズもイーサンも狂ってる。

その時だった。けたたましい警笛と共に、二人の姿は、車のライトに照らされた。

「君の負けだよ、エイムズ」

イーサンの言葉に、エイムズは血走った目を大きく見開いた。