「ああ、もうそんな時間か。君も、食事に行くといい、案内が、待っているから」

事務員は、事務所の扉を指差した。

「寮の部屋は、取りあえず、君一人。編入生が来たら、相部屋になるから」

話し終えると事務員は、そそくさと自分の席へ戻った。僕は、黙って鞄を持つと、学園の歴史と子爵の回想録を抱え、ドアを開けた。

案内の人だろうか?廊下には、人がいた。

とても醜い男と、とても美しい男の二人が───。

ぼくの驚きを見てとったのか、制服姿の美しい顔立ちの男が、クスリと笑った。

「やあ、僕は、三年生のエイムズ。寮で自治会長をやっている。君の兄さんと一緒にね」

よろしく、と、エイムズが手を差し出して来た。

握手、で、良いのだろうか。社交的な勢いが、少し、僕を気後れさせる。

それでも、イーサンの友達だろう人だからと、僕は緊張した面持ちで、右手を差し出した。

僕の手は、まるで女の子のような、繊細な手に握られて、握手を交わしていた。

「で、こっちが、君の気になっている男、ハイデン。寮の管理人をやっている。といっても、単なる、戸締まり役だけどね。運営は、基本的に、僕たち、自治会で、行っている。無論、入寮した君も、自治会メンバーだ。おいおい、手伝ってもらうことになるからね」

じゃあ、行こうかと言って、エイムズは、僕を食堂へ誘った。

「ああ、荷物と、その鬱陶しい回顧録は、ハイデンに任せて。部屋へ運んでおいてくれるから」

エイムズの隣で、ハイデンは、僕に向かって頭を下げた。

途端に、彼の特徴ある体が目に飛びこんで来る。

ハイデンの背は、ハイデンの頭2つは、低くかった。まるで、大人と子供。

彼の、背中は、かがまり、弓なりに盛上がっていたからだ。つまり、彼は、せむし。だから、背が低く見えた。

広く付きだした額、曲がった鼻に、分厚い唇。そんな、誰が見ても醜い
姿をさらけ出しながら、当然、無表情で、ハイデンは、僕の荷物を、受けとるために、分厚く、ゴツゴツした手を差し出してきた。

「さあ、さっさと、渡して。食事の時間も決まってるからね。行くよ、君の兄さんも待っている」

エイムズが、急かした。


僕は、荷物を手渡した。

エイムズは、ハイデンの姿など、全く気にも留めていない。

一種異様な風貌も、見慣れてしまえば、何て事もないのだろう。

それよりも、僕は、シスターマリーの言葉を思い出していた。 


───管理人さんには、あまり近付かないで。