常に家族のために働くのが当たり前だったため、ただ座っているだけで必要な物がなにもかも用意される生活は、どうしても身分不相応な気がして心苦しいのだった。

 居間へ行くと、すぐに国茂が豪勢な朝食を並べてくれる。

 皆で雑談をしながら堪能し、ふうとひと息ついていると。

「そういえば伊吹と凛ちゃんさー。最近は御朱印集めてんの?」

 食後に緑茶をすすりながら、鞍馬がのんびりとした口調で尋ねてきた。

 御朱印は、自分たちの明るい未来のために伊吹と凛が現在集めているものだった。

 妖力が強く、実力があると認定された高位のあやかしは皆、栄誉ある称号を国から授与されている。

 伊吹は『最強』、伊吹の従姉である鬼の紅葉(もみじ)は『高潔』、人の悪夢を食らう(ばく)(はく)()は『(きょう)()』といったように、それぞれのあやかしの性質や特に優れた能力などになぞらえた〝ふたつ名〟だ。

 そして称号持ちのあやかしは、その力を示すための御朱印を所持している。

 誰かの御朱印帳に自らの印を押すという行為は、その者の力を認め、魂レベルのつながりを生涯約束するという、同胞の誓いであった。

 伊吹の祖父で史上最強のあやかしとして名を()せた酒呑(しゅてん)(どう)()も、凛の先代にあたる夜血の乙女を妻にしていた。

 (いばら)()童子と呼ばれた彼女は、人間でありながら数多のあやかしに慕われる存在だったと言われている。
 あやかしにとって下等な生物でしかない人間の茨木童子が、なぜあやかしたちに認められていたのか。