「いや、体調は問題ない。ただすこぶる元気すぎたというか、思ってた以上に駄目だったというか、もろもろ噛みしめているというか……」

「はい?」

 いそいそとフォークを置くマオ。
 彼は「茉優」と心配げな微笑で私を見て、

「ホント、俺の目の届くこの家に留まってくれて、ありがとうな」

「……? いえ、お礼を言うべきは私のほうです。何から何までありがとうございます」

「いえ……こちらこそ」

(なんで敬語なんだろう?)

 と、コツリと窓の鳴る音がした。
 首を巡らせると、窓のすぐ外でにこやかに手を振る狸絆さん。

「大旦那様!?」

 ここの空間の窓は開かない仕組みになっている。急いで立ち上がり、すぐ横の縁側の窓を開けた。
 狸絆さんもこちらに歩を進めてくる。

「楽しそうなところ、邪魔してすまないね。今が見ごろだから、飾ってもらえたらと思って」

 そう言って手渡されたのは、白藤の活けられた陶器の花瓶。

「ありがとうございます、置かせていただきます。この間は白い藤があるなんて知らなかったので驚いてしまいましたが……綺麗ですね」

「でしょ? 藤といえど色は別。けれど紫には紫の、白には白の。そしてどちらにも"藤"としての良さがあるというもの。違うけれど同じ。同じだけれど、違う。どちらも美しいものだね」

(違うけれど同じ。同じだけれど、違う……?)

 それって、まるで――。

「気に入ってくれたのなら、良かった。ウチは白藤しかないからね。紫の藤が見たければ、鎌倉のあちこちで見られるけれど……そうだね、まずは鶴岡八幡宮なんてどうかな。鎌倉といったらな場所だし、ちょうど今が見ごろだよ。なんなら散歩がてら一緒に」

「用事が済んだのなら戻ったらどうだ、親父」

「マオさん」

 私の背後ろから覗き込むようにして、窓枠に手をかけたマオさんが。

「俺達が休憩中だってわかってるんだろ? 紅茶が冷めちまう……って、まてまてなんで座るんだよ!?」

「いやあ、ひと休みしようかなって」

「あ、お茶、お持ちしますね」

「茉優!? 平気だ親父はすぐに本邸に戻るから……!」

「うんうん、我が息子ながらなんとも心が狭いねえ」

「いやなんでちょっと嬉しそうに言うんだよ」