そしてずるずると引っ張られ、物の様に自室に放り投げられ、障子がピシャリと冷淡に閉じた。
 その障子が閉められてからと言うもの、私の全てが一変する。
 美しさを留めていたはずの顔も、負けないと毅然としていた性格も、側室としての生活も。小十郎様への態度も、藤の方様や東姫様達への憤る思いも。
 それから私は前髪を伸ばし始め、髪で左部分を覆い隠す様になり、俯く事が常になった。食事もまともな物を食べさせてもらえず、細くなり、衣もお古ばかりに袖を通す事になり、見窄らしい容姿になっていった。
 そして自室から基本出る事を許されなくなったせいで、どこにも出て行く事が出来ない。出て行ける所は厠だけ。
 そうして日々障子の向こう側から飛んでくる声にビクビクし、身を縮ませたりしながら、長い一日を手持ち無沙汰に過ごしている。時折、得意の笛を吹く事もあるけれど。昔の様に、大っぴらに吹く事はしなくなった。寝静まった夜半、音が漏れない様に押し入れに籠もって、小さく吹くのだ。文字通りの「影姫」を。
 ただ時間だけが過ぎている。生きているのに、死んでいる様な生活で無の地獄だ。
 それだからいっその事死を迎えたいのだけれど。口惜しい事に、死はまだ迎えに来ない。
 けれど悲嘆に暮れる事はない。一足先に死の暗闇が襲い、私の存在がどんどんと影に溶け込んでいるから。幸いな事に、その影化を止める人も、影から引っ張りあげようとしてくれる人も居ない。私は一日を過ごす度、時と言う物が淡々と進む度、影に溶け込んでいっている。ありがたい事に、私が居なくても周りは、問題無く進んでいる。それだから私を気に掛ける者は居ない、誰一人として。
 それだから私は、誰が呼び始めたのかは分からないが。次第に、皆からこう呼ばれる様になった。
 寵愛を失ったばかりか、美しかった顔も失い、何もかもを失った。あまりにも可哀想で、あまりにも憐れな「憐姫(れんひめ)」と。