あと、私にもささやかな悩みはある。それは交際が長く続かないこと。

実際、男の人からの誘いは絶えず、見た目と親のスペックで幾人かと交際した。でも、どの相手とも長続きはしなかった。

『お人形と付き合ってるみたい』 

お決まりの別れ台詞だった。


「お人形みたい……か」

いつも笑っているからだろう。
誰にも聞かれないはずの言葉は、すぐに拾われる。 

「お人形みたい?誰に言われたの?」

見上げれば、私服に着替えた、古谷が私を見下ろしていた。

「あ、あの……」 

「此処いい?」

思わず、頷いた私に微笑みながら、古谷が腰を下ろした。手に持っていた、ここのカフェの新作のピーチスムージーをテーブルに、コトンとおく。

「ええっと……いいんですか?仕事先でこんな……」

「あ、友達って言って、バイト上がってきたから大丈夫。僕のこと気にしてくれるなんて、優しいんだね」

「いえ、優しくなんかないです」

私は肩をすくめた。

「僕は古谷英太(ふるやえいた)。英太でいいよ。同じ大学の四回だよ。君を大学で見かけたことあってさ」

驚いた私を見ながら、英太が笑う。

「名前おしえてよ」

ピーチスムージーをストローから吸い込みながら、上目遣いで英太が私に訊ねた。

羽田花音(はねだかのん)です。大学3回です」

「花音か、いい名前」

「飲む?」

差し出されたピーチスムージーを一口もらう。

「美味しい」

「でしょ、おススメだよ」

子供みたいに口を開けて笑った英太は、さっきの店員とお客との関係の時よりも、ずっとフランクで、何故だか、誰にも言えない心の膜を勝手に剥ぎ取られるような、何とも言えない感覚があった。