やがて終業式を迎えた。下校途中の道すがら、玲人は学校が休みになることを二重の意味でぶつぶつ言っていた。
「だって、僕があかねちゃんに会えないばっかりじゃなくて、小林くんがお隣さんなんでしょ? ずるいよ、僕だってあかねちゃんに会いたい」
えーーーーーー!!! なんか推しがかわいいこと言ってるーーーーーー!!!
というのは置いといて。
「そんなに大袈裟な事かな? だって、二週間したら三学期だよ? それに塾の冬期講習もあるし、意外と二週間なんてあっという間だよ?」
と、冷静に返せるようにはなっていた。
「恋するDKにとって二週間は大きいの!」
「私は玲人くんの画像をいっぱい持ってるから、特に不自由はしないと思うなあ」
あかねちゃんばっかりずるいっ! と言って、玲人は拗ねてしまう。これは駄目な解答例だった、と反省しつつ、あかねは別の話題を探す。
「玲人くんは塾とか行かないの?」
「ん~、そういう計画はなかったなあ。目標は高校卒業だったから。そっかあ、あかねちゃん塾なら、遊びにも行けないね」
成程。そもそも芸能科に通う人が大学を目指すのって稀らしいし、その辺の基準は違うのかもしれない。
「っていうか、親友の優菜とも会わないのに、クラスメイトと冬休みに会う約束するかなあ……」
あくまでも玲人を普通のクラスメイトとするなら、という前提で話をする。
「えー。じゃあ、駅前のイルミネーションで写真撮らない? あそこ結構綺麗で、僕お気に入りなんだ」
「そうだね、そのくらいなら」
やったあ、と無邪気に喜ぶ玲人がかわいい。駅前は帰宅時間という事もあって、人で混雑していた。イルミネーション目当ての人も大勢いて、何人もが眩い光の前で写真を撮っている。
あかねと玲人はイルミネーション広場をゆっくりと見て回り、いくつもあるイルミネーションスポットで色々写真を撮った。そして玲人がお気に入りだと言うツリーのイルミネーションの前でも二人でスマホに収まった。
「へへ。待ち受けにしよ」
だんだん玲人の、普通の男子高生らしいところも見えて来た。今なんてそうだ。まるで優菜が話してくれた優菜の彼氏にそっくりのことをしている。
(……って、彼氏って……!! 違うから違うから!!)
行動が一緒だったと言うだけでその関係性は、優菜の場合とあかねの場合では大きく異なる。自分の思考の流れを全力で否定していると、あかねちゃんは? と玲人に問われた。あかねのスマホで写真を撮らなくていいのか、という事らしかった。
「えっ? いいの? なんかそんな、サービスショットのような……」
「えー、あかねちゃんも待ち受けにしてくれたら、僕嬉しいけどな」
サービスショット、キタワァーーーーーーーーー!!!!
「全力で!!! お願いします!!!」
あかねが両手でスマホを差し出すと、玲人はそれを受け取って、二人の斜め上に掲げた。
「いーい? 1足す1は~?」
にー! と笑顔を作ろうとした時に、玲人の手があかねの肩に載った。パシャっと撮った画像は笑っているというより突然のことに驚いて目を見開いた顔になってる。
「はは、ブサイクゥ~! こうやって並ぶと、本当に顔面偏差値が雲泥の差だなってしみじみ思うわ。この絵面はみんなに納得してもらえないこと請け合いだなあ。でも私の待ち受けにはちょうどいいかも! 魔除けも兼ねて!」
「魔除けって何。あかねちゃん、目がくりくりしてて、驚いた顔も可愛いよ」
ッカ~~~~っ!! 流れるように相手を褒めるスキル素晴らしい!! ここは調子に乗っておこう!!
「ありがとう。そう言われてみると、目が大きく見えて目力強く思えるね! ちょっとだけ美人になった気分になれたよ! 待ち受けにする勇気が出た!」
ホクホクした気分で待ち受けに設定すると、今までに見たことのない玲人の笑顔が手の中にあって、なんだかちょっと特別感を味わってしまう。
(……こんな贅沢味わっちゃって良いのかな……。あとから罰が当たったりして)
そんなことを思いながら、思いもかけず手にすることとなった新しい待ち受け画面に満足して、あかねは帰宅の途に就いた。