帰り際、いつも使う道ではない所を通っていたので、初めて見るお店を見つけた。

「あっ、ちょっと寄って行ってもいいかな?」

あかねが問うと、玲人はどうぞどうぞとついて来てくれた。小さな雑貨屋の店内には、センス良くディスプレイされたステーショナリーや小物が並んでいた。

「何か買うの?」
「うん。優菜の誕生日がもうすぐだから」

そう言ってあかねは店内を物色すると、丁度棚の中央に陳列されていた、かわいいタッチで描かれたコーギーのペアマグカップを手に取った。

「あっ、そう言えば上田さんって彼氏居るんだよね」
「そう。他校の子なんだけど、話を聞くに、どうも犬っぽいの。優菜の事大好きで一生懸命そうなところがそう思うな」
「へえ」

そして、僕は何に見える? と玲人が聞く。

「え~? 玲人くん~? そうだなあ……。愛され成分が多いチワワとか?」
「あはは、あの世界に居たからそう思うんじゃない?」
「あっ、そんなことなくて」

あかねは慌てて玲人をチワワに見立てた見解を述べた。

「チワワって、賢いし、その分懐いた人に愛されるから、クラスに直ぐ溶け込んだのは愛され成分のたまものだと思うし、文化祭の時も率先して執事の働きを十分にしてくれたのなんて、クラスの為に献身的に働いてくれたってことだよね? 
そう言う行動で示すことで、玲人くんはみんなの信頼を勝ち取ってきたわけだし、そういう意味でチワワかなあって。
それにチワワはやきもち焼きだっていう話もあるから、そういうのはちょっと、光輝に対して対抗心持った玲人くんに似てるかな」
「そう? 嬉しいな、そうやってあかねちゃんがちゃんと見てくれて。あかねちゃんは柴犬っぽいよね。僕のこと神とか言って、絶対的に僕に対して悪くないようにしてくれるのがそんな感じ」
「あははは。確かに推し活勢ってみんな忠犬みたいなところあるかもね」

あかねが優菜のプレゼントをラッピングしてもらっている横で、玲人が何かを、会計していた。何を買ったんだろう、と思っていると、見る? と嬉しそうに玲人が包みを開いた。コロンと出てきたのは、チワワと柴犬のイヤホンジャックだった。

「ふたつ?」
「そう。『高橋あかねの暁玲人初体験』初日の記念になるかなって思って。柴犬はあかねちゃんだから僕ので、こっちのチワワをあかねちゃんが使ってくれると嬉しいんだけどな」
「え~、そんな、嬉しすぎるよ!! 玲人くん!!」

ありがとう! と、玲人の気遣いに感動してると、あかねがプレゼントを受け取ろうと差し出した手にイヤホンジャックを乗せる前に。

「えっ!? ええっ!?!? えええっ!?!?!?」

なんと、チワワのイヤホンジャックにキスをしたのだ!

「なななななななになにしてるの!? れいじくんっっっ!?!?!?!?」

店の前でテンパって挙動不審になったあかねに、玲人はキスをしたイヤホンジャックを手渡した。

えええええっっっ!?!?!? れれれれいじくんのくちびるにふれたイヤホンジャックが、ててててにのったけど!?!?!?!?!?

あからさまにじたばたしているあかねに対して、玲人の冷静なこと冷静な事。

「いや、神としてって言ったけど、やっぱりリアルの僕があかねちゃんのこと好きな事、ちゃんと示しておきたくってさ」

スマホ使うたびに思い出してね。

そんな風にウルトラハイパーアメージングキュートな笑顔で言われても、あかねの手のひらの上に載ったイヤホンジャックの重みが10トンの金塊の如く重たい。

「ぬおおおおお!!!! 玲人くんのハートが重いっっっ!!! 私はこれを付けてラインしたり各種アプリを利用したりするのか!! おも!! たい!!!」
「愛が重いって、響きがなあ……」
「いやいやいやいや!! 別に全くそういう意味ではなく!!! 私に受け止める度量が備わってなかっただけのことなので、玲人くんはお気になさらずですっっ!!!」

あかねがひとしきり騒いだ後で、玲人は改めて、記念になる? と笑顔で問うてきた。……この人、全く自分のしたこと疑ってないな?

「きっ、記念っていうか、もうブレインバーストだよ!!! 私の脳みそは玲人くんのデータHDDを残して破裂消滅したっっ!!!」
「まあ、強烈な印象を残せたようで良かったよ。つけてみて?」

そう言って、玲人が柴犬のイヤホンジャックをスマホに着ける。でも、真似をして緊張の極地でチワワのイヤホンジャックを付けてみると、玲人はあろうことかこんなことを言った。

「あは。みんなは気づかないだろうけど、なんだかペアっぽいね」

ペ!!! ア!!!

今、あかねの頭上で富士山が噴火した。

「ぬおおおおお!!!! 神自ら与えたもうたメダイのようなものか!! 恐れ多いです!!!」
「まあ、自分で神とか言っちゃったから仕方ないけど、これからもよろしくね」

そう言ってあかねに向ける笑顔はやっぱり画面越しに見るより強烈にあかねのハートを抉ってくる。

「こんなことが毎回あったんでは、正直わたくし身が持ちません!!! 神よ……!!!」

あかねの発作に、玲人が苦笑した。

「成程、急速な間合いの詰め方が悪かったんだね。今後の参考にするよ」

とはいえ、あかねもイヤホンジャックを外さなかった。……それだけでも進歩だと思うことにした。