そんな訳で、『高橋あかねの暁玲人初体験』第一回目のイベントは、この前光輝と一緒に行ったカフェでのデート(?)の上書きだった。そのことを優菜に言うと、
「暁くんって、意外と嫉妬深かったのね」
と呆れられた。
そうだな。あかねもそう思う。嫉妬、という粘着質なイメージが爽やかイケメン王子の玲人に合わずに悩むけど、等身大の男子の感情だと思えば、光輝もそんなようなことを玲人に対して思ってたと言っていたし、そういうもんなのかな、と思っていた。
すると、あかねだって嫉妬したじゃない、と優菜が指摘した。
「えっ……? えっ、えっ? いつ!?!?」
あかねが優菜の指摘に動揺していると、優菜はそんなことも気づいてなかったの、と呆れた顔をした。
「だって暁くんに無視られて、彼が諸永さんと仲良くしてたのを悔しいって思ったんでしょ?」
いや、桃花だけではなくクラスメイト全員に思ってたけど……。あれが嫉妬なのか……。
ぽかんと間抜けな顔をするあかねに、優菜はため息を吐いた。
「なんであんたがそこまで鈍いのか、謎だわ」
「だって、推しは交友関係だって間違いを犯さないって信じてたし……」
「……はあ、成程。あんたのその鈍さって、暁くんを盲目的に信じてた結果なのね……。あんたが暁くんを神だと崇めて譲らない根本が見えた気がするわ……」
「えっ? じゃあ逆に、優菜が嫉妬するときってどういう時?」
優菜には他校に彼氏が居る。普段嫉妬と無関係そうな、陸上一筋の優菜が、恋人の前でどういう風になるのか、参考になるかもしれなくて聞いてみる。
「うーん……。向こうの方が恋愛的に積極的だし、ロマンチストだからねえ……。ただ、調理実習の料理を女の子に食べさせた時は、ちょっと私も拗ねたわ」
「料理?」
意外なもので嫉妬するんだなと思っていたら、料理は優菜にとって大事なものらしかった。
「あいつ、いっつもいっつも競技会に差し入れ持ってきてたのよ。私のコンディションの為に。そういうことをするやつだから、私にとってあいつの手料理って、かなり思い入れがあったのね。だから、授業の成果物とはいえ、あいつが手料理を人に食べさせた、ってことに腹が立ったの。喧嘩にもならなかったけどね。私が不満ぶちまけて、あいつが『もうしないよ』って約束しただけだから」
へえ……。こんなに淡白そうな優菜でも、譲れない所があるんだな。料理で繋がってる二人、良いなあ……。
「っていうか、やられちゃいやな事、を相手と共有できる関係が、彼氏彼女、ってこと? だったら私は玲人くんに嫌な事なんてぶつけられないなあ……。だって、推しだもん……」
考え込んだあかねに優菜は苦笑する。
「苦労するわね、暁くん」
そんなことを言って、ほらほら悩んでないで行っといで、と、優菜はあかねを送り出してくれた。