教室の窓の外から、初冬の日差しが差してくる。あかねが思考回路を止めている間にも季節は進んでいた。

「あ――――っ! 鬱陶しいんだよ! あかね!」
「そうだよ、あかね。その覇気のない死人みたいな顔、梅雨時期みたいな湿度を感じるわ。そのまま倒れて朽ち果てたら、見事なキノコが生えるわよ」

昼食時。光輝や優菜はあかねと弁当を囲みながら、机に突っ伏したあかねを激していた。購買部や学食に行かないクラスメイトたち(特に女子)が、あかねをいい気味だと笑って見ている。
あの日から毎日続く玲人による無関心に、あかねは思いのほか心に大きな穴をあけていた。光輝が呆れたように続ける。

「だから言ったろ。『暁があかねの気持ちがはっきりするまで待っててくれるかどうかは、分かんないぞ』って。いくら好きな相手だって、振り向いてくれないなら諦めようって思うのがフツーじゃん。俺みたいに長年の気持ちでもなけりゃ、見込みない勝負は早く決着付けた方がいいんだって。ましてや暁は、あかねが諸永を紹介してるし、自分に気のある美人に気が移っても仕方ないんだよ」

あかねは光輝の言葉に弱々しく反論した。

「そうなんだよね……。わかってる、勝手な言いぐさなんだって……」

でも、寂しい。恋にならなかったら、話すことも出来ないなんて思ってなかった。推しと喋れない日々が、こんなに味気ない日々だなんて、三ヶ月前までは思ってもみなかった。

「うう……、私は贅沢になったんだわ……。玲人くん(推し)の言う事に応じられないなら、せめて二学期前に戻らないと……」
「お前、この期に及んでまだ暁のこと、推しとか言うのか……。いっそ哀れだな」

哀れなやつ、と言いつつ、光輝はやさしく頭をポンポンと撫でた。

「普通はみんなみたいに淡い恋心にでもなりそうなもんなのに、あかねの鋼の心意気が、いっそ見事だよ……。まあ、甘いもんでも食べたら?」

そう言って優菜が自分のデザートに持ってきていたマカロンを、一つあかねにくれた。でも、そのマカロンにも手が付かずに涙に暮れているあかねに、声が掛かった。

「高橋さん……」

耳馴染んだ、やわらかい声。パッと顔を上げるとそこには、玲人が居た。

「ちょっと、……いいかな……」