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それ以来、玲人があかねに話し掛けることはなくなった。授業の遅れも追いついていて、隣の席のあかねを頼ることもない。何かあったとしても、他のクラスメイトに聞いている。
そうだよな。これが普通の世界だ。推しと親しくしたなんて、この三ヶ月が特別だったのだ。
平凡で平坦な毎日が過ぎていく。クラスメイトの輪に入っている玲人の傍に、あかねの場所はない。
「結局高橋さんは、暁くんとも小林くんとも何にもなかったってこと?」
ミーハー女子代表からそう聞かれる。
「だから最初から言ってたでしょ。なーんにもないのよ、最初から」
あかねの言葉に、なぁんだ、と拍子抜けしている彼女たちも、廊下の向こうから桃花がやって来ると、さりげなく場所を空ける。
「玲人くん」
玲人を迎えに来たと思しき桃花が玲人を呼ぶ。授業が終わり、もうみんな帰るばかりだ。
「桃花」
どきん、と嫌な動悸が鳴った。
玲人が桃花を呼びしてにしたのを、初めて聞いたのだ。
(そうだよね。彼女だもん)
振り返ると玲人を迎えに来た桃花に向かって、玲人がやさし気な笑みを浮かべている。二人はそのまま談笑しながら教室を出て行った。ミーハー女子たちと一緒に、それを見送る。
「はぁ~、まあ、あそこまで美男美女でまとまられると、文句のつけようがないわね」
「だよね。あははは」
あかねは彼女に乾いた笑いと返した。
これはあかねが望んだことなのに。
どうしてもどうしても。
木枯らしのような寂しさが拭えない…………。