翌日、あかねがいつも通り光輝と登校すると、二階に上がり切ったところでまたしても女子生徒に囲まれてしまった。
「高橋さん! 高橋さんはやっぱり小林くん狙いだったのね!?」
「暁くんとは何でもなかったのね!?」
「っていうことは、やっぱり暁くんは諸永さんとデキてるの!?」
矢継ぎ早にあかねに問う女子たちから、コレ、SNSで回って来たんだけど!? と言って見せられたのは、昨日のカフェでパンケーキを切ったフォークを持っている後頭部のあかねと、あかねの手首ごとフォークを掴んでパンケーキを頬張っている光輝の姿の画像だった。
あっ、優菜の作戦、うまくいったんだ、と把握する傍らで、光輝がなんだなんだと目を白黒させている。
「あ、あかね? 俺狙いって、どういう……」
耳の先をやや赤くしている光輝を見て、あかねは彼に最後まで言わせないで、囲んできた女子たちを捌いた。
「だから玲人くんとはなんにも関係ないって言ったでしょー。あー、光輝、ちょっとこっち来て」
そう言って光輝の腕を引っ張って、ぐいぐいと廊下の域あたりまで行くと、少子化によって使われなくなった教室のうちの一つに入った。扉を入って直ぐの壁に長身の光輝を追い詰め、詰め寄った。
「光輝、ごめん。これ……、優菜の作戦なんだ」
「さ、作戦?」
「うん」
あかねは昨日、優菜に耳打ちされた作戦の内容を光輝に伝えた。
――――『あかねは帰りに、光輝くんをお茶に誘うの。私がその様子を隠し撮りして匿名でSNSに上げるから、取り敢えず暁くんの方はそれで解決できるでしょ』
光輝はあかねに耳打ちされて、その場で脱力した。ヘタっと膝から崩れ落ちてその場にしゃがみこみ、膝の間に頭を項垂れ、後頭部を抱える。
本当にがっかりした様子なので、あかねは罪悪感をひしひしと覚えた。
「ご、ごめんね。でも取り敢えず、玲人くんと諸永さんをまとめないと、玲人くんの薔薇色の高校生活が……」
「あー、はいはい。あかねが何を押しても『玲人くん最優先』だったこと、忘れてたわ。いや、いい。一瞬でも勘違いした俺が悪い」
ごめん! 今度は謝罪の意味を込めておごるからね! あかねはそう思い、そういうわけだから、と続けた。
「私が光輝狙いだってのも画像に付いた尾ひれなの。ごめんね。でもこれで玲人くんが諸永さんとまとまってくれれば、私だけじゃなくてみんなが納得するでしょ?」
なんていったって美男美女。全女子生徒が納得するには、玲人の選んだ女の子にそれなりの説得力がないといけない。
あかねがその意気込みで語ると、光輝は許してくれた。
「しかたない。優菜ちゃんの作戦に噛んどくわ」
「ありがと! 感謝する!」
やっと光輝に苦笑とはいえ笑みが戻って、あかねはほっとした。
これで玲人もあかねに何か言ってくることはなくなるだろう。そうしたら今度こそみんなで桃花と玲人のことを祝福できると思う。
これであかねの推し生活は終わりになるんだ。冬を前にしたこの季節のように一抹の寂しさを覚えるこんな気持ちになるのは、推し活が長かったからだろう。
ひとのものになる玲人を想像しなかったわけではなかったけど、いざその時が来るとやっぱり寂しいもんだなあ、とあかねはしみじみと思った。