翌日の朝。家を出た時に既に門扉の前に居た光輝に体調を聞かれたけれど、少したんこぶは出来たくらいで、それも触らなければ痛くない。

「だいじょーぶだいじょーぶ! 健康には自信あるの、光輝なら知ってるでしょ? 寝不足は仕方ないわ。みんなめちゃくちゃ頑張ってたもんね?」
「それはそうだけど、『夢の中で推しと会いたいから』って言って、睡眠も十分とる派だったのを頑張りすぎてんだよ。去年はさほどでもなかったじゃん。やっぱ、暁が中心に居たから?」

図星を指されて、照れくさくなる。なんといっても去年と今年では状況が違い過ぎるではないか。仕方ないと笑って欲しい。

「でも、これでもう当分無理するようなことはないし、安心して? 兎に角ガッコ行こう」

光輝はあかねに促されるように駅へ向かった。







しかし、元気に校門をくぐり、教室に行こうと二階まで階段を上り終えた時に、二十人ほどの女子のグループに掴まってしまった。

「高橋さん、話があるの」

とても温和な話し合いではなさそうな空気を漂わせて、グループの一人が言った。それに光輝が抗ってくれる。

「おい、あかね連れて何処行こうっていうんだよ。不穏な空気漂わせてんなよ」
「小林くんは黙ってて。あなたが庇い立てしたって、この子の罪は変わらないんだから」

罪!? 罪って、あかねはキリストなのかな!? このまま十字架に張り付けられるの!?

なにより驚いたのは、光輝に対して高圧的に出ている女子(とその仲間)が、この前まで光輝にミーハーしてた子たちだったことだ。全くもって、女心は秋の空だなあ、としみじみ思う。

そんなわけで、あかねは屋上に拉致された。
体感的になのか心情的になのか分からなやや冷たい風が吹きすさび、あかねは女子グループに囲まれた。みんな顔が殺気立っていて、先日玲人に告白されたときには教室には他に誰も居なかった筈なのに、これは多分玲人の態度の所為だな、とあかねは頭を抱える。

「高橋あかねさん、……で良いわよね? 暁玲人くんと同じクラスの」
「……はい」

あまり抵抗しないようにしようと、相手の出方を窺うように返事をすると、グループの一人が一歩前に歩み出て、あかねの前に立った。

「はっきり言うわ。良い子面して玲人くんの興味を引くなんて、ファンの風上にも置けない、最低な女ね、あなた。全国の玲人くんファンの代表として、制裁を加えます」

制裁!? これまた時代錯誤な言葉が出たな!? っていうか、全国のファンを代表とか言いつつ、目つきがめっちゃ私怨だよね!? っていうか、ついこの前まで光輝とのことで云々言って来てたのに、これだから『恋スル女子』は嫌なんだ!! 私絶対こんな風になりたくないぞ!!

「だ、だったらあなたたちだって、玲人くんのことを本気で考えて上げたら良いのに! だって、玲人くん、『普通の高校生になりたい』って言ったんだよ!?」

あかねの正論は女子の怒りのボルテージを上げた。

「そんなこと、百も承知よ! でも、玲人くんは朱に交われば赤くなるタイプじゃないのよ! 玲人くんのハイスペックな顔や人格が、普通の高校生のわけないじゃない!! それはあなただって、思ってるんでしょ!?」

それはそうだけど!! でも、玲人を思えばこその行動だってできる筈だ。

「でも……っ!」

……と思って、反論しかけた時。