六限目、体育。今日の種目はバスケットボールだった。班ごとにコートに入り、ミニゲームを行う。体育館の床をボールが弾む音が激しく聞こえる中、女子たちはキャーキャー言いながら玲人に声援を送っていた。

玲人はバラエティー番組のスポーツコーナーでも俊敏な動きを見せていたように、低い姿勢を保ちながらドリブルでディフェンスをかわし、自らシュート、とフェイントで見せかけてチームメイトにパスをする。
大体の女子は、ゴール下で玲人がパスを出してしまうと、あーん、などと残念がったため息を漏らすが、決して自分でシュートを決めに行かない所が実に玲人らしいと、あかねは思う。
玲人にパスされてうまい具合にゴール下に居た子は、シュートを決めると、友達の所へ駆け寄りハイタッチをして嬉しそうだった。こういう経験が次に生きれば良い、と玲人は思っているんだろう。あの子は体育が苦手だから、まさに玲人の思いは届くと思う。

こういう些細な努力を自然とできてしまう玲人はやっぱり素敵だなあ。

……と思ったら、なんかあかねの方を見てピースサインなんか作ってる。えええ、あれ、あかねに向けてじゃないと良いけどなあ。しかし、もしあかねに向けてなのだとしたら、あかねは玲人を恋愛対象として見られないし、そのままだと玲人に恋人が出来ないなんていう不名誉な噂が出回ってしまう。
推しの名誉を傷つけるわけにはいかない! と、あかねは一人息まいた。

玲人のチームがシュートを決め、プレーが再開されたゲームの中で、相手チームのパスをカットした玲人が先程と同じ流れでパスをした相手が、その鋭いパスを受け取り損ね、今度は手で弾いたはずみでボールがあかねの方に飛んできた。

「あっ」
「っ!」

ガンッ!

ボールがあかねの頭にヒットして、ゲームを見学していたあかねはその勢いで後ろにふらつき、後頭部を体育館の壁に激突させた。ゴン! という音をさせてあかねが壁に激突すると、体育館が緊迫した空気に包まれる。

「あかねちゃん!」
「あかね!」
「高橋さん!」

玲人たちと先生の声が霞みの向こうに聞こえたまま、あかねはそのまま気絶した。