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「まあ、それ、誰かに見られなくて良かったわよね」
帰りのフードコートで優菜にそう言われて、本当にそうだと思った。あかねは玲人を心の中でひっそりと推しつつ、彼の希望である『普通の高校生』をさせてあげたいだけで、その表舞台に自分が上がりたいわけではない。
「そゆときに、なんで俺の名前出さないんだって思うわ。虫よけくらいにはなるだろ?」
そういう手もあるのか。あまりに不測の事態にテンパりすぎてて、そこまで考え付かなかった。
「あかねはこれから気を抜かないことだね。玲人くんファンは今でも有象無象と湧いて出てるし、彼の発言が校内に広まるのは時間の問題。殺気だった彼女たちには口答えするんじゃなくて、兎に角自分は関係ないって言い続けないと、面倒くさいことになるよ。きっと」
優菜にピッとおでこに指を突きさされて、項垂れるように俯く。
いや、学校の夕景を背景に輝く光の中に立つ玲人はとてもこの世の人とは思えないくらい美しくて眼福だったが、その感動と、これからの学校生活の安寧を天秤に測ったら、勿論後者に傾くことなんて愚問だ。
ぐっとこぶしを握って顔を上げると、決意の眼差しで優菜と光輝を見た。
「そうだね、兎に角ここは、優菜の言う通り、防衛が最善の策だわ。光輝、もしかしたらあんたの名前を出すかもしれないけど、フォローよろしく」
「オーケーオーケー。幼馴染みとして、そこは協力を惜しまんよ」
「私もそれとなく、あかねは玲人くんに恋愛感情ないって学校でみんなに言っておくわ」
「ありがと、二人とも」
心強い援護があって助かる。あかねは気持ちを新たにスマホのロック画面を見る。
(玲人くん! 玲人くんの『普通の高校生活』、私、全力で応援するからね! 私がさいっこうの青春をサポートするからっ!)
夕陽に向かって叫ぶように、あかねは心の中で決意した。