文化祭は盛況だった。あかねたちのクラスの執事喫茶も玲人がエスコート役をするとあって、校内は勿論、外部訪問者のお客たちからも人気だった。勿論玲人一人が執事役をやるわけじゃないけど、教室内で黒の執事服を隙なく着こなして給仕する玲人の姿を写真に収めている人は少なくなかった。

玲人は以前あかねに向けた言葉通り、今までの準備も、そして今日の給仕も楽しんでいるようだった。それにしても、執事服を着た玲人は尊みの極みだ。

(はーーーーーー!!! 玲人くんの執事服姿とか、反対意見は言ったものの、やっぱり尊みの極みだわ!!! この案が採用されたことで、私の寿命は十年延びた!! 視力も上がったに違いない!! だって玲人くんがこの世の物とも思えない程、美しく見えるもん!!!)

ファンクラブの会報にもアイドル雑誌にもかっこいいスーツ姿の五人は載っていたが、誌面(へいめん)と実物(りったい)では、明らかに後者の方があかねの脳に圧倒的尊みを突き付けてくる。(当たり前だ。実物に勝るものなんてないんだから)きらきらのステージ衣装なんてなくても玲人はその輝かんばかりのオーラで教室内を照らし、クラスの出し物を彩っていた。

「暁くん、これ三番テーブル」
「はーい」

キッチンコーナーからクッキーと紅茶を渡されてサーブする執事服の玲人は本当に麗しい。教室の外には長い入室待ち行列ができ、入室したお客さんはみんな玲人に見惚れたり、その所作の美しさにため息を吐いたり、それから写真もバシャバシャ撮っている。
それらのことに全然嫌な顔をしないで画面の向こうで浮かべていたのとおんなじ笑顔を振りまいている玲人は、あかねから見ると少しサービスに徹しすぎと思えたくらいだった。玲人が楽しんでいるなら良いけど、芸能人だった習慣が出ているのだったら、折角普通の高校に転入した意味がない。
あかねは玲人が汗を拭きにキッチンコーナーの裏に隠れた時に声をかけた。

「玲人くん、サービスしすぎじゃない? 疲れてない?」

あかねの心配に、玲人は笑顔を向けた。

「ううん、全然。凄く楽しいよ。なんか子供の頃に妹とままごとやったのを思い出しちゃった」

あはは、と笑う玲人の笑顔に嘘がなかったので、あかねは少し安心した。

「あんま、無理しないでね。折角うちに転入した甲斐がないよ?」

気を遣って言ってみると、玲人も落ち着いて微笑んでくれた。

「ありがと。でもほんとに楽しいんだ。やっぱり転入してきてよかった。今までとは違う体験をしてる感じがしてワクワクしてるよ」

そうならいいんだ。あかねは玲人が無理していないことを確認すると、廊下の列整理に戻った。
その様子を玲人が汗を拭きながら見つめていて、オーダーを受け取りにきた光輝が、その視線の先を追っていた。