その瞬間、二月の風が川面を撫でて、星のような煌めきを残していった。

 俺たちに残された時間は短く、儚い。
 彼女が生きているうちに、伝えたいことの半分も伝えきれないかもしれない。
 だから、俺は目に焼き付ける。心の全部に刻みつける。
 白石粋の存在を、この先一生、忘れないように。



 八雲の唇に触れたのは二回目のことだったけれど、一回目とは全く違うように感じた。
 優しくて、温かくて、幸せなキスだった。
 気持ちを伝えていいのかずっと迷っていたけれど、唇が触れ合った瞬間、そんな思いはどこかに消え去ってしまった。
 八雲のことが好きだ。愛おしい。
 だから、この命を全うするまでは、この恋と向き合ってもいいだろうか。
 八雲に抱きしめられ、肩越しに涙で滲んだ景色を見ながら、私はそんなことを問いかけていた。
 八雲は、私の希望そのものだ。
 だから、絶対に長く生きて。私の分まで、きっと生きて。
 何度生まれ変わっても私を見つけると、八雲は言ってくれた。私が未練そのものだと。
 もう、それだけで十分だ。……十分だよ。
 これから生きる一分一秒を、私はもう、絶対に投げ出したりしない。
 河川敷で抱き合いながら、そう強く胸に誓った。
『俺が粋を想うように、俺のことを想って』
 そんな約束、言われなくても、守れる。
 生まれ変わって、八雲のことを思いだせなくても、八雲が私のことを思っていてくれるなら、きっと何かの形で出会える。
 そう、信じているよ。

 それから私達は、一週間放課後を一緒に過ごし、色んな場所を写真に収めた。
 校舎の中、いつもの帰り道、よく立ち寄ったファミレス、通っていた塾……。
 八雲はひとつも文句を言わずに付き添ってくれた。
 ちなみに、八雲と恋人になったことは天音にだけ伝えた。
天音は『やっぱりそうなんだ!』と大声を上げて驚いていたけれど、すぐに嬉しそうにしてくれた。『粋が幸せなら、私も嬉しい』と言って。
 そんなことを言ってくれる友達ができたことを、私はとても幸福に思った。

 そして今、お風呂上りに自室に戻ると、スマホに通知が届いていることに気づいた。
【入院前に行ってみたいと思う場所、あった】
 八雲からのメッセージだった。
 写真を撮る場所もそろそろ尽きてきたところだったので、嬉しい提案だ。
「どこだろ、ここ……」