「自分の大切な人が、先にこの世からいなくなってしまったとしたら、たとえ虫でも動物でも何でもそばにいてほしいって、思うよな」
「うん……」
「姿形を変えて、大切な人がそばにいるかもしれない。……そう思えるだけで、生きることを頑張れる人は、きっと沢山いる。今なら、その気持ちが分かる」
「八雲……」
「だから……」
 俺はそこまで言って、話すことを止めた。
 この先を言うことに、躊躇したからだ。
 でも、粋は俺の言葉をしっかりと待っている。
「だから?」
 言葉の続きを促してくる粋の額に、俺は自分の額をくっつける。
 粋の額は俺より体温が高くて、熱い。
 一瞬迷ったけれど、もう、自分の〝本当〟を伝えるしかないと思った。
「だから、粋も俺を想って」
「え……」
「俺が粋を想うように、俺のことを想って」
 我ながら、ずるい言い方だと思った。
 でも、これ以上に最適な言葉が見つからなかった。
 粋が俺を強く想ってくれれば、きっと来世でそばにいれる。
 そうしたら、絶対、俺は粋を見つけに行くから。
 呆れるほど自分勝手な願いを聞いて、粋はふっと笑みをこぼした。
「何それ……すごい俺様な告白」
「うん……。言ってから俺もそう思った」
 ふふっと暫く笑ってから、粋は涙を拭う。
 沈黙が流れたけれど、俺は粋の答えをいつまでだって待とうと思えた。
「分かった」
 一言で、そう言い切る粋。
どこか清々しい表情をしている。
 あまりに簡潔な返答だったので、何に対する言葉なのか分からず、戸惑いの気持ちを隠せない。
「……分かったの?」
 探るように尋ねると、粋はこくんと頷く。
「うん、分かった。だから、ちゃんと見つけてね」
「俺が言うのもなんだけど、告白の返事が、分かったって、すごいね」
 そうぼやくと、粋はさらに声を出して笑った。
 予想外の返事だったけれど、粋らしいと言えば粋らしい答え方だ。
 何か吹っ切れたように空を見上げる粋を、俺はただ見つめる。
「私も、迷ってたけど……。でも今、すごく幸せだな」
 色んな言葉を省いた台詞のように思えたけれど、粋の気持ちは十分伝わってきた。
 ただの、自分の思い過ごしかもしれない。それでもいい。俺たちは今、同じ気持ちで隣にいると、思いたい。
「粋」
 俺は彼女の手をぎゅっと握りしめて、顔を覗き込み、そっとキスをした。