この能力は、もうこの人生で尽きると分かっている。
 もし奇跡が起きて、この能力が粋に移ったとしても、俺は粋のことを来世で覚えていられない。
「粋、どこにも行くな。行くなよ……」
――自分は今なんて、酷なことを言っているのだろう。
 粋だって、生きたいと思っているのに。
 どうしてそれを、他人の俺が言ってるんだよ。バカかよ。
 涙が、つーっと頬を静かに伝っていく。一度出たらもうダメで、堰を切ったように溢れた熱い涙が、粋のコートを濡らしていく。
「俺の未練は、粋そのものだ」
 ぽつりとつぶやくと、粋の体からふっと力が抜けて、そっと俺の背中に腕が回ってきた。
 小さな手が背中に回っただけで、愛しさで胸が震える。
 俺は、この体温を生まれ変わっても忘れたくない。
「人は……必ず生まれ変われるんだよね」
 粋は確かめるように、静かに問いかけてくる。
 俺は深く頷いて、「そうだよ」としっかり答えた。
「八雲が、おじいちゃんになっても、ちゃんと見つけてよね……っ」
「うん」
「わ、私が男になっても、女になっても、人間じゃなくても、ちゃんと……」
「うん、見つけるよ」
 そう断言すると、粋はそっと体を離して、涙で濡れた大きな瞳で俺のことを見つめた。
 彼女の瞳に、俺はあと何度映ることができるだろう。
 見つめられるだけで、心臓が破裂しそうなほど、切なくなる。
「……ひとつだけ、粋に教えたいことがあるんだ」
 俺はいつか粋に伝えようと思っていたことをふと思いだした。
 それは、多くの人の前世を見てきて、唯一気づいたこと。
 粋は不思議そうな顔をしながら、言葉の続きを待っている。
「現世とあの世でお互いに強く想い合ってると、魂が引き寄せられやすいらしい」
「え……」
「気づいていないだけで、大切な人の生まれ変わりは、わりとそばにいることが多いよ」
「そう、なの……?」
 その秘密を知ったときだけは、世界は優しいと思えたな。
 大切な娘を亡くした人、最愛の妻を亡くした人、親友を亡くした人。色んな人に出会って来た。
 ……大切な人の生まれ変わりとすれ違う瞬間を、俺は今まで幾度となく見てきたのだ。
 歯がゆく思いながら、何もできずに見過ごしてきた。
 でも、ようやくこの能力があってよかったと思えている。
 この優しい世界の法則を、大切な人に伝えることができたから。