「じゃあ、ホームルーム終わり。日直は掃除忘れないようになー」
 教師の合図で、生徒たちは散り散りになっていく。
 俺はリュックを背負って粋に視線を送ると、「昇降口で待ってて」と遠くから言われた。
 そういえば、こんな風に誰かと待ち合わせて帰るなんて、今回の人生では初めてのことだ。
 言われた通り昇降口で粋のことを待っていると、なぜか須藤もセットでついてきていた。
「あれ、茶道部あるんじゃないの?」
 そう問いかけると、須藤はむっと口を尖らせる。
「あるけど、見送りに来たの」
「なんだっけ、茶道大会があるから忙しくなるんだっけ?」
「お茶会ですぅ! 赤沢君、本当テキトーなんだから」
 俺と須藤の会話を聞いて、隣で粋が苦笑している。
 どうして須藤が不機嫌そうなのかは分からないが、俺は下駄箱から靴を取り出した。
「放課後だけだよ! 粋を貸すのは」
「……何だそれ」
 なるほど。俺に粋との時間を取られたようで、つまらなく思っているのか。
 俺は呆れた表情になりながら、「了解」と一言返す。
 粋もローファーを取り出すと、「また明日ね、天音」と言って、須藤に笑顔で手を振った。
 今日は二月とは思えぬ晴天で、まだ外は寒いながらも、澄んだ夕空が広がっている。
 たくさんの生徒が通り過ぎる中、俺たちは肩を並べて駅を目指した。
 粋がやりたかったことは、こんなことでいいのだろうか。
 というか、二人きりになって何をどんな風に話したらいいのか、全然分からない。
 自分の気持ちを自覚するというのは、結構厄介なものだ。
「どっか寄る?」
 終始無言で歩いていたけれど、俺はようやく言葉を発した。
 問いかけられ、粋は腕を組んで何かを考え込んでいる。
「色々考えたの。近年高校生がどんな風に遊んでるのか」
「俺が言うなら分かるけど、粋も高校生でしょ」
「で、私、全然写真とか撮ってなかったなって思って。SNSのアカウントも持ってないし」
「写真?」
「うん。この町を放課後練り歩いて、色んな景色を撮りたいなって思ったの」
 白石がSNSのアカウントを持っていないというのは何となくイメージ通りだったけれど、何でそんなことを急に思ったのだろう。
 不思議に思っていると、粋は駅の前で立ち止まって、急に俺にスマホを向けた。
 カシャッという音が響いて、写真を撮られたことを遅れて理解する。