■運命の日

 粋の泣き叫ぶ声が、ずっと頭の中に沁みついている。
『あの日からずっと‼ 自分のことなんか大っ嫌いだよ!!!!』
 枯れてしまうほど涙を流し続ける彼女を抱きしめたあの夜。
 俺は、腕の中にいるこの子が数年以内にいなくなってしまうなんて、考えたくないと心が叫んでいることに気づいた。
 大切で、怖くて、手離したくなくて、儚い存在。俺の中で、粋はそんな存在になっている。
 いったい、いつから? いつからこんなに、粋に感情移入していたんだろう。
 長い間生きてきても、こんな風に誰かに固執することなんてなかった。
 粋が泣いている姿を見ると、胸が苦しくてどうしようもなくなる。
 彼女が泣かないで済むのなら、自分の何もかもを捨ててもいいような気さえしている。
 これが、未練、なのだろうか。
 自分の未来に粋がいないのかと思うと、絶望に近い気持ちが沸いてくる。
俺はずっと、どこかで人と深く関わることを避けて生きてきた。
 それなのに、粋とだけは、痛みも悲しみも全部、分け合いたいと思った。粋の人生に深く関わりたいと思ってしまった。
 自分の中に、こんな気持ちがあっただなんて、粋と出会うまで知らなかった。

 冬休みが明けて一週間が経った頃。
今日も一日、自分の気持ちに答えが出せないまま、あっという間に放課後になってしまった。
 粋に話しかけるタイミングも上手く掴めないまま、時間だけがただ過ぎていく。
「あ、ねぇ、赤沢君! ちょっとこっち来て」
 悶々としたまま自転車置き場に向かっていると、俺のことを待ち伏せしていたのか、普段話したことのないクラスメイトに突然呼び止められた。
 校舎の裏にいたのは、クラスでも派手な女子に部類される、立川だった。
「ごめん、教室では話しづらくて、待ち伏せしてた」
 上目づかいでそんなことを言われ、俺は「はぁ」と力のない返事をする。
 いったい何について聞かれるのか、さっぱり見当がつかない。
「何か用事?」
 急かすように問いかけると、彼女はもじもじした雰囲気を醸しだしてくる。
「えっと、用事っていうか、一度もちゃんと話したことないなと思って……」
「まあ……、俺基本女子と絡みないしね」
「看板落ちたとき庇ったの、私近くで見てたの。それで、赤沢君ってすごい優しいとこあるんだなて思って……」
「……どうも」