私がいなくなっても、八雲にはこの先、まだまだ長い人生があるのだ。
 そのことが嬉しくもあり、寂しくもあった。
『今もし粋のそばにいられなかったら、俺は生まれ変わったって、後悔するよ』
 八雲と過ごした夜を思い出すと、胸がぎゅっと苦しくなる。
 彼にとっての私はどんな存在なのか、もっと確かめたくなってしまう。
【死の世界が怖くならないように、今度たくさん話をして】
 私は、指先に力を込めて、今伝えたいことを彼に発信した。
 すると、メッセージは数秒で返ってきて、私のスマホを震わせた。
【何でも話すよ。何時間でも】
「八雲……会いたい」
 短いメッセージが、どうしてこんなにも胸に沁みるのだろう。
 スマホを胸に抱いて、彼の言葉を体全部に行き渡らせるように、そっと目を閉じた。

 私は結局、あれから一週間ほど学校を休んだ。
 入院までのタイムリミットが近づいているというのに、あっという間に一月後半になってしまい、もうすぐ二月がやって来る。
 あと三週間、どんな風に過ごしたらいいのだろうか。
 家で安静にしている間、私はずっと、人生でやり残したことを考えていた。
 八雲と、最後にやりたいことは、何だろう。
 考えに考え抜いて、私はようやくひとつの答えを導き出した。
 私が彼としたいことは、とてもありきたりなことだった。
「粋! インフル大丈夫だった?」
「白石さん、俺もガチで心配してたよ……!」
 久々に登校すると、秦野君と天音がとても心配した様子で駆けつけてくれた。
 秦野君もきっと、えりなと祥子から私とのいざこざを聞いているはずなのに、全く変わらず接してくれるので驚いた。
 私は「もう完全復活!」と笑顔を見せて、二人にピースサインを送った。
 すごく迷ったけれど、天音にもまだ、病気のことは言えない。できるだけ今まで通りに接してほしいから。
「八雲! お前も心配してたよな」
 秦野君が急に八雲を呼んだので、心臓がドキッと跳ねる。
 八雲は私に気づくと、すぐに立ち上がりこっちに来てくれた。
「もう、平気なの?」
「うん、何とか」
「あんま無理すんなよ」
 心底心配そうな八雲を安心させるように、私はもう一度笑顔を作った。
 保健室まで運んでくれたことに対して、改めてお礼を伝えたいけれど、秦野君と天音の前だと少し恥ずかしくて言えない。