「起きたのね。気分は大丈夫?」
「私、寝てたんだ……全然記憶ない」
 薬の副作用なのかもしれないけれど、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
 母親はその間もずっと一緒にいてくれたようで、食品が入った袋を私に見せてきた。
「夕ご飯、今日は普通食で大丈夫らしいから、売店で買ってきたわ。この中に食べれそうなのある?」
「ありがとう。じゃあ、サンドウィッチもらおうかな」
 サンドウィッチを受け取り、ビニールをゆっくり剥がす。
 母親も一緒におにぎりを開封して、私と同じタイミングで口に運んだ。
 つきっきりで疲れていただろうから、母親にもしっかりと休息を取ってほしい。
「そういえば、赤沢君っていう子、知ってる?」
「え……?」
 母親の突然の問いかけに、私は思い切り動揺してしまい、サンドウィッチを取り落としそうになった。
「その子が保健室まで運んでくれたそうよ」
 八雲が……?
 あんなに大事そうな話をしていたのに、私のせいで遮ってしまったのだろうか。
 そう思うと、すごく申し訳ない気持ちになる。
 今まで忘れていた、立川さんと八雲の二ショットを思い出して、再び胸がズキッと疼く。
「さっきまで一緒にいてくれたんだけど、もう遅いからって、帰したところだったの」
「そうなんだ……」
「すごく心配してくれてたけど、お友達?」
 母親の探るような問いかけに、私は少し間をおいてから、こくんと頷く。
 それから、「すごく大切な」と付け足した。
 母親は「そう」と相槌を打ってから、それ以上深堀はしてこない。
 私もそれ以上語ることは無く、閉口した。
 その日は大事を取り、一日だけ入院という形になったけれど、来月からは、残りの人生をこの病院内で過ごすことになる。
 学校で八雲や天音に会えるのはあとたった一カ月なのだと思うと、とてつもなく寂しくなった。
 着替え終わり、ベッドに寝ころんだそのとき、枕元でスマホが震える。
 届いていたのは、八雲からの、メッセージだった。
【何でもいいから、連絡待ってる】
 あの夜から、学校で話すタイミングをじつはずっと失っていた。
 だから、このシンプルな文章だけで胸が震えた。
 八雲は、私がこの世界からいなくなったら、どれだけ悲しんでくれるだろうか。
 そんなバカなことを考えてしまうほど、弱気になっていた。