「俺、この能力を消したいんだ。で、超記憶能力消す方法はただひとつ。〝現世〟に〝未練〟を持つことなんだよね」
「未練を……?」
「普通に考えてさ、この世に未練なんか持てるわけないよね。だって俺、どうせ死んでも生まれ変われるって知ってるんだから。もうそれを十回も繰り返して、途方に暮れてるところ」
「そうなんだ……。な、何ができるかわからないけど、もしやりたいことがあったら全部付き合うよ」
 赤沢君は能力を消したがっているんだ。
 そうか、記憶を持ち続けるって、結構辛いことなのかもしれない。
 ずっと達観して人生を彷徨いながら、ループから抜け出せずにいるのだろうか。
 そういや今サラッと〝十回も〟なんて言ったけれど、いったいどれほど昔の記憶からあるんだろう……。
 赤沢君の反応をじっと待っていると、彼はゆっくり口を開いた。
「……逆に、白石が死ぬ前にやっておきたいと思ってること、全部付き合わせてよ」
「え、そんなことでいいの?」
「うん。誰かと何かを共有し合ったほうが、感覚掴めそうだし」
 赤沢君はすでに今回の人生も諦めた様子だけれど、私がやり残したくないと思ってること全部に付き合えば、未練とは何かが掴めると思ったのかもしれない。
 そんなことでいいならと、私はこくんと頷き承諾する。
 余命が近いなら、私も死ぬ前にやりたいことを、やっておきたいと思うし……。
「なら、交渉成立」
 長い小指を差し出してくる赤沢君。
 私は少し戸惑いつつも、そっとその指に小指を絡めた。
 赤沢君と一緒にいたら、本当に私はあの子の生まれ変わりに会えるだろうか。
「見つけたら言うから、白石が探して欲しい人の写真見せて」
「う、うん、この子。……夢花(ユメカ)って言うの」
「ふーん、友達?」
 その質問に、私は沈黙する。
 赤沢君は特にそれ以上深堀せずに、「了解」とだけ返した。
 ちょうどいいタイミングで電車が近づく音が聞こえてきて、私たちは席を立つ。

 突然、余命宣告された高校二年の秋。
 人生のタイムリミットが近づく中、掴めないクラスメイトと、不思議な関係が始まった。



 前世の記憶が残り続ける、超記憶能力の持ち主は、みんな黙っているだけで世界には結構いる。
 そして、こんなに辛い能力は他にない、と断言できる。