『家族の代わりができてタイミングよかったね。どうせ私はもうすぐ死ぬし』
 今思い返しても、ひどすぎる言葉だ。
 それなのに……母親はこうして、普通に食事を作ってくれている。
 私はいったい、母親の何を見てきたんだろう。
 落ち込んでいると、ふと、テーブルに置きっぱなしのノートパソコンが目に入った。
 何やらそこには、大量の写真が保存されているようだ。
 母親がSNSにあげる用の写真かと思ったけれど、よくよく目を凝らしてみると、その写真には見慣れた人物しか映っていない。
「え……」
 写真映えするスイーツや、おしゃれな料理、可愛い小物の向こうに、常に私が映っている。
 ほとんど隠し撮りのような写真ばかりで、私は困惑した。
 キッチンにいた母親が、ノートパソコンを凝視している私に気づいて、慌ててこっちにやってきた。
「やだ、見ちゃった……?」
「う、うん、ごめん……」
「粋が帰ってくるまで不安で……写真を遡って見てたの。粋は、いつもそんなに写真撮られるの好きじゃなさそうだから……隠し撮りみたいになっちゃってるけど。許して……」
 こっそり撮影していたことを申し訳なく思っているのか、母親は気まずそうな顔をしている。この前、診察の帰りに行った喫茶店での写真まである。
 今まで、母親がSNSのために撮っていると思っていた写真は……、全部私の写真だったの……?
 驚きで、言葉が出てこない。
 本当に、私は母親の気持ちを、全く分かっていなかったのかもしれない。
 どの写真も、私はカメラ目線じゃなくて、すごくつまらなさそうな顔をしている。
 私の寝顔や、勉強しているときの真剣な様子まである。
 こんな写真、いったいどんな気持ちで……。
「粋との、どんな一瞬も忘れたくなくて」
「え……」
「ごめんね。病院では、私ばっかり取り乱してしまって……」
 母親は、私の前の席に座ると、ノートパソコンの写真を眺めながら目を潤ませた。
「粋と出会ったときね。私、いきなりこんなに可愛い娘の母親になれるなんてって、すごく嬉しかったのよ」
「お母さん……」
「それなのにね、神様ってほんと、何してるのかしらね……」
 語尾に向かって声が震えていく母親を見て、心臓がぎゅっと苦しくなった。
 目頭が熱くなって、また簡単に涙が溢れ出そうになる。
 私は、こんなに涙もろい人間じゃなかったはずなのに。