朝日が差し込んだ八雲の家は、夜見た時と印象が違って、より一層温かみのある部屋に見える。
 私は静かにドアノブに手を添えて、八雲の家をあとにした。

 向き合わなければいけないことが、山ほどある。
 解決できるかどうかは分からないけれど、私はもう、見て見ぬふりはできない。
『自分の状況を変えるのは、いつも〝本当〟だけだ』
 いつかの八雲の言葉を、もう一度胸の中で唱えてみる。
 たとえどんな結末になろうと、八雲の言葉を思い出して、自分の本心を……ぶつけてみたいと思う。
 電車を乗り継ぎ、自分の家の前まで辿り着くと、私は深く呼吸をした。
 ふぅーっと長く息を吐いて、よし、と心の中で気合を入れる。
 両親にあんなにひどいことを言い捨てておいて、今さらどんな顔で戻ったらいいのか。私にも分からない。
 だけど、私が帰る場所は……ここだから。
 ガチャッと静かにドアを開けると、まだ朝の七時にもかかわらず、すぐに足音が聞こえてきた。
 ずっとダイニングテーブルにいたのだろうか。駆けつけてきたのは、母親だった。
「粋……」
「……ただいま」
 目を見開き、驚いた様子でこっちを見ている母親。
 服装も昨夜のままだから、もしかしたらお風呂にも入らずそのまま過ごしたのかもしれない。
 そっとリビングに入ると、父親も昨夜と同じ姿でソファーで寝ていた。
 遠目に見ても分かる。二人とも、とても疲れた顔をしている。
「心配かけて、ごめんなさい」
 まずは謝ろうと思い、深々と頭を下げた。
 母親は静かに首を横に振って、「いいのよ」とはなを啜りながら答えた。
 それから、何事もなかったようにパチンと手を叩いて、「お腹が空いたでしょう」と言って、母親は慌ただしくキッチンへと向かっていく。
 私はダイニングチェアにひとまず座って、母親が朝食を持ってきてくれるのを、待つことにした。
 すぐにコーヒーのいい匂いが漂って、トースターのタイマー音が聞こえた。既に何品か用意してくれていたのか、サラダやオムレツが冷蔵庫から出てきた。
「なんで……? 朝からこんなに」
「無理しないで。何もせずに待っていたら頭がおかしくなっちゃいそうで、作ってただけだから……」
 母親のその言葉に、ずしっと罪悪感を抱く。
 お腹の中にいる赤ちゃんには何の罪もないのに、私は本当に最低なことを言った。