ドクンドクンと心音が伝わって来て、私は八雲と一体化するように腕に力を込めた。
「でも、粋が泣いている姿を見て、痛みも悲しみも全部、分け合いたいと思った……っ」
「や、くも……」
「今もし粋のそばにいられなかったら、俺は生まれ変わったって、後悔するよ」
 八雲の言葉ひとつひとつが、胸に響く。
 粉々になった心が、ゆっくりと形を取り戻していく。
 人と深く関わることが怖いのは、私も同じだ。もう二度と、大切な人と別れたくない。あの悲しみを味わいたくない。
 でも、それを分かっていても、八雲は私と関わりたいと思ってくれるのか。
 まるで光が差すように、自分の孤独な世界に彼が入ってくる。
「粋。やっぱり、今粋が泣いている理由を、全部教えて」
「え……」
「夢花さんのことも、ちゃんと知りたい」
 真剣な声でそうお願いされて、私は手の甲で涙を拭った。
 ゆっくり息を吸い込んで、何とか呼吸を整える。
 偽りの友情を続けていたこと、新しい家族を心から祝福できなかったこと、親友との取り戻せない過去……。
 ひとつひとつの出来事を、今しっかり拾い集めて、じっと向き合ってみる。
 どれも悲しい色をしている。とても重たくてひとりでは抱えきれない。
 だけど、全部を八雲に曝け出してみてもいいのかな。
 八雲になら、いいのかな。
「聞いてくれる……?」
 顔をくしゃくしゃにしながら、私はそう問いかけた。
 八雲は「うん」と頷いて、私の手を握りしめてくれた。
その優しい笑顔を見て、自分の心を重くしている全てのことを話そうと思った。
 時系列がバラバラで、支離滅裂になったっていい。
 自分が背負っていた荷物を、一個一個下ろすように彼に伝えよう。
今まで誰にも話してこなかったことを、八雲にだけは、知ってほしい。
 
どうか、生まれ変わっても私を忘れないで。
 そんなことを、人生で初めて願った夜だった。
 

 
 その日の朝日は、やたらと眩しくて、自然と目が覚めてしまった。
 雲の隙間から、いくつもの光の柱が差し込んでいる。
 いつの間にかソファーで寝てしまっていた私は、ぐっと体を起こして片目をこする。
 八雲はまだ起きておらず、猫のように蹲ってすーすーと寝息を立てている。
「……ありがとう、八雲」
 私はそれだけつぶやくと、そっと起こさないように席を立ち、鞄を手に取った。