自分自身と、ぼろぼろになるまで向き合おうとしている。
 こんなに矛盾だらけの姿、誰にも見せたくない。
 なのに……、八雲の優しい体温のせいで、涙が止まらない。
「ああ、そっか、こんな気持ちか……」
 私の背中を撫でながら、八雲が耳元でぽつりとつぶやく。
 嗚咽しながら、私は彼の言葉に耳を傾けた。
「粋が泣くと……胸が張り裂けるほど苦しくなる」
「え……」
「まるで、自分ごとみたいに」
 八雲は私の背中に回した手の力を強めると、グッと胸の中に引き込んで私を抱きしめた。
 私は彼の腕の中にすっぽり収まって、鼓動を間近で聞く体勢になる。
「辛かったな」
 ……こんなに優しい声を、私は生まれて一度も聞いたことがないと、本気で思った。
 顔を傾けて何とか彼の顔を見上げると、驚くことに彼の頬にも涙が伝っていた。
 その姿を見て、心臓が絞られるような感覚に陥る。
「どうして……?」
 思わず、言葉が漏れた。
 どうして、一緒に泣いてくれるの。
 どうして、そんなに苦しそうな顔をしてくれるの。
 八雲の果てしなく長い人生の中で、私と過ごした時間なんて、きっと一瞬だろうに。
「辛かったな、粋……」
「うっ、ううっ……」
「俺と粋は違う人間なのに、粋が泣いてると、自分のことのように苦しくて仕方ない……不思議だ」
 トクントクンと、彼の心音が私を包み込んでいく。
 八雲の優しい気持ちが、水みたいに沁み込んでくる。
 一気に強張っていた体の力が抜けていくのが分かる。
「人は生まれ変われるけど、俺が八雲として、粋が粋として出会える世界線は、死んだらもう二度とこない。絶対二度と、ありえないんだよな……」
 噛みしめるようにつぶやく八雲の体が、少しだけ震えていることに気づいた。
 私が私として、彼が彼として出会える世界戦は、今の世界しかない。いくら生まれ変われても、死んだらもう二度と会えない。
 この人生でしか、八雲の人生とは交われない。
 当たり前のことが痛いほど胸に沁みて、八雲の存在を確かめるように背中に腕を回した。
「長い間生きてきて……、沢山の人と出会ってきたけど、俺はどこかで人と深く関わることを避けてた。だって、出会ったら別れがくる。結果が分かってるのに心を削るなんて、怖くてできなかった……」
 初めて聞く八雲の心情に、私は必死に耳を傾ける。