夢花のことがあってから、ずっと罪悪感で締め付けていた心が、もう限界だというように形をなくして崩れていく。
 人を好きになる気持ちを知って、私は少しでも、夢花の感情に近づけただろうか。あの時私も恋をしていたら、もっと寄り添えることができたのだろうか。
 ねぇ、夢花。私は、夢花を失ってから、一度もちゃんと呼吸ができていないよ。心が、暗い水の中に沈んでいるみたいで。
「ずっと、生きてるって感じが、しなかったの……っ」
 聞き取るのが困難なほど、震えた声。
 八雲は、真っ直ぐ私を見つめたまま、必死に私の言葉を拾おうとしてくれている。
「夢花を失ってから……、ずっと、全部が面倒で、鬱陶しくて、周りが嘘くさくて、何もかも終わらせたくて……」
「うん」
「自分は、きっといつか何かの罰を受ける。そう思って生きてきた……っ」
 一度流れた涙は、止まることを知らずに、そのまま頬を濡らし続ける。
 視界がぐわんと湾曲して、八雲の顔もうまく見えない。
 鼻がツンと痛くなって、呼吸も浅くなり、自分の目がとてつもなく熱く感じる。
「う、ううああっ……」
 私は今、ようやく全部の感情をむき出しにして、泣こうと思った。
 もう、何がどうなってもいい。私は今悲しくて、悲しくて、悲しくて仕方ないのだから。
 八雲の肩口に額を押し付けて、子供のように泣きわめいた。
「わ、私はっ、夢花を……人が人を好きになる気持ちを、否定した……っ」
「粋……」
「人としてやっちゃいけないことをしたの……っ!!」
「粋、大丈夫だから……」
「あの日からずっと‼ 自分のことなんか大っ嫌いだよ!!!!」
 感情を爆発させ、喉が裂けるほどの声で泣き叫んだ。
 ずっと胸の内に抱え込んでいた本音が、ぼろぼろと簡単に剥がれ落ちていく。
 もうため込むには限界だった。あの過去を、私は一ミリも乗り越えられていない。
 大切な友人を、最悪の形で失った。
 乗り越えられるわけがなかった。
 自分を許せるわけがなかった。
 だから、余命宣告を受けたとき、「やっぱり」と思ったのだ。
 やっぱり、私は神様から罰を受けた。仕方ない。これで許されるわけじゃないけど、私はこの事実を静かに受け入れよう、と。
 それなのに、私は今八雲を好きになって、過去を後悔して、涙を流している。
 生きようとしている。生きたいと思っている。