私の弱々しいつぶやきに対して、八雲は真剣な顔で「頑張ったな」と言ってくれた。
 今誰かに優しくされたら、私はきっと、壊れたように泣いてしまう。
 これ以上八雲に迷惑をかけられない。だから、絶対に泣かない。そう思えば思うほど、涙腺が熱くなっていく。
「まあ……、今日はここでゆっくり休めば。俺、二階にいるから何かあったら呼んで」
 八雲にポンと頭をやさしく撫でられ、心臓がドクンと跳ねる。
 ダメだ。そうじゃない。私は、誰かに優しくされていいような、そんな人間ではないのだから。
「待って」
 立ち上がろうとした八雲の服の端を、手でぐっと掴む。
 手が震えたまま、私は顔を上げて、ようやく八雲とちゃんと目を合わせた。
 彼は驚いたような顔でこっちを見ており、私の発言を待ってくれている。
 今、私は八雲に何を求めているんだろう。引き止めながら考えた。
 優しく慰めてほしいのか。一緒に泣いてほしいのか。心から同情してほしいのか。
 そのどれもが、しっくりこない。
 でも、ここにいてほしい。八雲にそばにいてほしいと、心が叫んでいる。
「八雲……キスして」
 空を切るように、私の言葉が静かな部屋に響き渡る。
 八雲は立ち止まったまま、黙ってこっちを見ている。
 私は、ありえない一言が自分の口から出てしまったことに、激しく動揺していた。自分の口から放たれた言葉だと、一瞬理解できなかったくらいに。
「……それって、未練のひとつ?」
「あ……」
 冷静な質問を返してきた八雲の顔を見ることができない。
 あまりの気まずさに私は目を逸らして、そっと服から手を離した。
 どうしよう。何と返そう。自分の意思とは関係なく出てしまった言葉の責任をどう取ればいいのか分からない。でも、何か話さなくては。焦る気持ちのまま、私は口を開いた。
「ごめん、私……、今の、深い意味とかなくて……」
「うん」
「ただ、寂しくて……」
 寂しい。その単語を口にした瞬間、ポロッと涙がこぼれてしまった。
 人との繋がりを感じたくて、キスをしてほしいと無意識のうちにお願いしてしまったんだろうか。
 恥ずかしい。時が戻せるなら、さっきの発言をなかったことにしたい。
 そんなことでこの寂しさを埋められるわけがないし、ただのクラスメイトにキスをせがまれるなんて嫌に決まっている。完全にどうかしていた。