不安になった私は、すぐに隣のクラスに向かった。
 すると、明らかに暗い顔をして孤立している夢花が、窓際の隅の席に座ってた。
 夢花を避けるように生徒たちは離れて、こそこそと噂話をしている。
「たしかにあの子、それっぽいよね」
「分かる……」
「噂、菅野君が流したらしいよ」
「うわ、えぐ……」
 どうしてこうなった。私たちは、ただ友達だっただけなのに。
 “私は”違う。そうじゃない。夢花と一緒にしないでほしい。ただ告白されだけ。望んでない。分かってほしい。
 でも、夢花とこんな風に気まずくなることも嫌だ。夢花を傷つけたやつが憎い。許せない。なぜこんなことをしたのかと、問い詰めたい。
 自分勝手な気持ちと、夢花を傷つけたくないという気持ちが、拮抗する。
 私は、いったい、どうすればいい?
「粋ちゃん……、あのこと、本当なの?」
「私たち、粋ちゃんは違うと思ってるけど。ちゃんと今のうちに否定しておかないと……噂ガチでやばいことになっちゃうんじゃ……」
 教室のドアの前で、よく話していたクラスの女子数人に問いかけられた。
 気づいたら額から冷汗が伝っていて、私は今この回答を間違ったら人生が終わるとまで思っていた。
「違う、私は、夢花とは違う……」
 感情をすべてオフにして、棒読みでつぶやいた。
 その瞬間、自分の中で何かが壊れる音がした。
「そっか! だよね。びっくりしたー」
「落書きしたやつ見つけて問い詰めよ!」
 しかし、私の言葉をすんなり信じた皆は、私を見る目を一気に変えて、普段通りに接してきた。
 数秒前まで、まるで違う生き物を見るような目つきをしていたのに。
 彼女たちに腕を引っ張られ元の教室に戻ろうとした間際、ばちっと夢花と目が合った。
「夢花……」
 誰にも聞き取れないくらい、小さな声で彼女の名前を呼ぶ。
 夢花は、私を見て少しだけ口角をあげて、いつものように優しく微笑むだけだった。

 その後、夢花は都内の高校を受けるため、という理由で突然転校してしまった。
 私と夢花はすっかり口を利かなくなっていたため、その情報を母親伝いで聞き、大きなショックを受けた。
 本人の希望で極秘で転校していったため、私は挨拶もできないまま夢花と別れた。
 そして、事態はさらに残酷な方向へと転がっていく。