「えりなと祥子が勝手に恋バナしてきたからって、どうして天音も好きな人を暴露しなきゃいけないの? それって、プライベートなこと逐一同じくらい晒さなきゃダメってこと? 何でそんなこと強制されなきゃいけないの? 好きな人がいなきゃ、恋愛経験がなきゃ、人より劣ってる? 友達の恋バナに百%共感することは義務?」
「は……?」
「何でそんな偉そうに聞けるの? 勝手に盛り上がれるの? ずっとずっとずっと疑問だった。苦痛だった。これから先もこんな感じなら、もう、二人とは一緒にいられない」
 しんと静まりかえった皆を見ながら、私はバッグからお金を取り出して、千円札を置いた。
 心臓が、バクンバクンと爆発しそうなくらい激しく鼓動している。
 でももう、何もかもどうでもよかった。余命宣告を受けていたからこそ、言えたのかもしれない。逆に言うと、そこまで追い込まれないと、私は本音をぶつけることはできなかったということだ。
「帰る。誘ってくれたのに空気壊してごめん」
「は……はあ? 粋アンタ今まで私たちのことそんな風に思ってたの……⁉」
 祥子の怒りの声を背中で聞いて、私は足早に店を出た。
 天音が「粋‼」と私の名を必死に叫んでいるのも聞こえたけれど、私は立ち止まらなかった。

 どうして私はあのとき、大切なことに気づけなかったんだろう。
 もし過去に戻れるのなら、私は絶対にあの大晦日の夜に戻る。
 あの日夢花をひとりにしなければ、未来は絶対に変わっていたはずだと思うから。



【夢花と粋はレズカップル】
 黒板の隅に書かれていた落書きを見て、私は絶望した。
 それは、冬休みが明けた一月のこと。
 クラスから冷たい視線を感じて教室に入ると、黒板の前に人だかりができていて、皆はその落書きを見て騒いでいた。
「何これ……」
 今まで仲良くしていた子たちも、私のことを冷めた目で見ている。
 まるで、宇宙人でも見るかのように。
 私は黒板消しを持つと、急いでその落書きを消した。
「私は違う‼」
 冷静でなかった私は、その場にいた子たちに思わず焦った気持ちをぶつけてしまった。
 しかし、「私は」という言葉を拾った生徒たちは、「夢花って子は本当なんだ……」と騒ぎ始める。
 こんなこと、いったい誰が流したんだろう……。
 夢花の耳にも届いているだろうか。