向かいに座っていたえりなに、こそっとそんなことを耳打ちされ、ぞわっと鳥肌が立った。
 男子三人は、やたら近いコミュニケーションの取り方をしてくるので、普段から女子と遊び慣れているのだろう。
 ……どうしよう。ものすごく居心地が悪い。帰りたい。
「粋ちゃんは、普段どんな音楽とか聴くの? あ、ていうか、エンスタやってる?」
「え……? あ、エンスタはやってないです」
 佐藤君とやらの質問に困っていると、「なんか粋って、ほんと秘密主義だよね」と祥子が横から入り込んできた。
 秘密にしているつもりはないし、実際にエンスタはやっていないのだから仕方ない。
 私は苦笑いを浮かべながら会話を聞き流し、何度もメニューを目でなぞる。
「粋もだけどー、天音も好きな人の話とか全然しないよね? 好きな人できたら言ってよね?」
 祥子の話をテキトーに流していると、突然話題の矛先が天音に変わった。
 急に話題を振られた天音はびっくりした様子で、「うん……、できたらね」と小さな声で答える。
 そのあいまいな答え方が気に食わなかったのか、祥子はさらに声を大きくした。
「あ! 何その感じー、ちょっと間があった! もしかして、言えないような人が好きとか? 後輩とか先生とか、もしかして……女子とか?」
 にやっと嫌な笑みを浮かべながら、祥子が勝手に話を進め始めた。
 何で……? 何で今、そんな話になったの?
 男子たちも祥子の話に食いついて、「え、そのパターン?」と煽っている。
「あー、確かに、あんまり天音、恋バナに共感してくる感じないもんねぇ。流行りの同性愛、ありえるかー。うちら偏見ないから安心して」
 えりなも祥子の会話に乗っかって、そんなことを言い始めた。
 天音はぎこちない笑みを浮かべて、「いやいや……」と困ったように否定している。
 けれど、天音以外の皆は勝手に盛り上がって、話を膨らませている。
 その様子を見て――、私は完全に夢花との過去がフラッシュバックしてしまった。
 心の中で、何かがプツンと途切れる。
 もう、全部、何もかも、どうでもいい。
 そんな感情が、思考停止していた私を突き動かした。
「どうして?」
 怒気を含ませた低い声は、盛り上がっていた五人を止めるには十分な効果があった。
 皆の視線が私に集まっているけれど、私は一切動じていない。