「赤ちゃんが生まれるなんて……、こんな時に私の口からは言えないわ……っ」
 え……? 何、赤ちゃんって、どういうこと……?
 衝撃的な言葉に、私はその場に硬直する。
「もう少し待とう。今はまだ、病気のことを知ったばかりで……粋も気持ちが不安定だろうから」
 何それ。いつの間にそんなことになっていたの。
 再婚して八年近く経つけれど、二人はずっと今の家族で十分と言っていたのに……。
 どうして今、こんなタイミングで……。
「代わり……いるじゃん」
 そんなことを思ってしまう自分が、ものすごく嫌だ。
 新しい命が生まれることを、私も心から祝福してあげたいのに、そんな余裕がない。
 病気が私の心を狭くさせているのか。それとも単に私の心が狭いだけなのか。
 でも、頭の中に私がいなくなってもすぐに三人家族で仲良く暮らしている光景が浮かんできて、心臓が瞬間的に粉々になった。
 心が折れることなんて、本当に一瞬で、簡単なんだ。
 もう、何もかも――どうでもいい。そんな気持ちになってくる。
 私はそっとバレないように家を抜け出して、天音たちとの集合場所へ向かった。

 駅前の近くにある、大型ショッピングモール内のパスタ専門店に入ると、すでに三人は集まっていた。
「粋、こっちこっち」
 しかし、何か様子がおかしい。
 天音の表情が強張っていて、死角になっていた席に目線を向けると、そこには見知らぬ男子生徒が三人いた。
 驚いている私に、祥子が何の悪気もなく、「T校の同い年。友達増やしたいって言うから呼んだの。丁度近くにいたからさ」と言ってくる。
 そんなの……、事前に聞いていたら、天音はきっと来なかった。案の定、天音は無理やり笑顔を作って、男子の話し相手になっている。
「粋ちゃんって言うの? 名前おしゃれー」
「粋、佐藤(さとう)君の隣空いてるから座りなよ」
 いつもより派手な化粧をしているえりなに指示され、私はやたら前髪の長い目鼻立ちのくっきりした男子生徒の隣にしぶしぶ座った。
 なんでこんなときに……合コンまがいなことをしてるんだろう、私。
 おかしくて、笑えてくる。
 こんなことになっているのも、私がえりなと祥子との関係を経ち切ってこなかったからだ。
「佐藤君、粋の写真見せたらすごい食いついてたよ」