私はよく分からないまま、ひとまずこくんと頷いてみる。
 いきなりかしこまって……、何を話そうとしているのだろう。全く見当がつかない。
「この前、私が何で少女漫画を読んでるか分かる?って聞いたよね」
「うん……」
「あれね、自分の変な考えをねじ伏せるために、読んでたの」
「変な考え……?」
「うん。少女漫画で起こりうる、この世界が普通なんだーって、洗脳するために」
 どうしよう。夢花の言っていることが、全く分からない。
 何も言えずに黙っていると、夢花は一度気持ちを整えるかのように、深呼吸をした。
「女子だから男子を好きになる。女子だからイケメンが好き。女子だから男子といるとドキドキするんだって……。何度も頭の中に叩き込んで、必死に共感しようとしてた」
 目の前を、丁度若い男女のカップルが笑いながら通り過ぎた。
 仲睦まじく綿あめを分け合って、楽しそうに微笑んでいる。
 夢花は、そんなシーンを、無理やり理解しようとしていた……?
 それって、もしかして……。
 ある考えが浮かんで、私は息を止める。
「私、普通の女子みたいに、男子は好きになれない」
「え……」
「私は……粋が、好き」
 夢花の真っ直ぐな瞳に、私の戸惑った顔が映しだされた。
 頭の中が真っ白になって……言葉が出てこない。
 夢花が、私を好き……? どうして……? なんで……?
 困惑の次に生まれてきた感情は、大きな疑問だった。
 私は女なのに。友達なのに。姉妹みたいな関係だと思っていたのに。
「なんで……?」
 湧き出た感情が、思わず口から出てしまった。
 その瞬間、夢花はとても傷ついた顔をしたけれど、フォローしている余裕はなかった。
 夢花は「そうだよね」と悲しそうに俯いて、それから、沈黙した。
 長い長い、沈黙。
 周りの楽しそうな雑音が、鮮明に聞こえる。
 私たち二人だけが、まるで別の世界にいるみたいに暗い。
「粋、私……」
「ごめん、無理」
 言い募る言葉を遮って、私は立ち上がる。
 とてもじゃないけど、自分ひとりでは処理しきれない。
 粋と過ごした日々が走馬灯のように駆け巡って、私の頭の中をさらにパニックにさせた。
 いったい、いつから……?
 いつから私たちは、純粋な友達じゃなかったの……?
「粋、大丈夫。分かってるよ。答えが欲しいわけじゃなかったの」