落ち着いて食べられる場所を探して、私たちは丁度よい茂みにある縁石に座った。
 少し薄暗いけれど、クレープを食べるには十分な場所だ。
「甘! 美味しい」
 一口食べてすぐ感想を言うと、夢花は隣でくすっと笑った。
「本当だ。美味しいね」
「不愛想なおじさんだったけど、味はいいね」
「粋、クリームついてるよ」
 指をさして笑われたので、私は慌てて口元を手の甲で拭う。
 よかった。いつも通りの夢花だ。この前は、本当に少し調子が悪かっただけなのかもしれない。夢花の笑顔を見て、クレープがより一層美味しく感じる。
 ほっと胸をなでおろしていると、ポケットでぶぶっとスマホが震えた。
「あ、お母さんかも」
「何だろう。粋のお父さん着いたのかな?」
 母親かと思い開くと、メッセージの相手は菅野君だった。
【来てる? 少しでもいいから会おうよ】
 夢花と一緒にスマホを眺めてしまったせいで、メッセージも全文読まれてしまった。
 一瞬、気まずい空気が私たちの間に流れる。
「菅野君、本当に粋のことが好きなんだね」
 苦笑交じりにつぶやく夢花に、私も同じように苦笑いを返す。   
 菅野君のことは、正直あんまり話したことがないし、よく分からない人という印象が強い。いつも人に囲まれているから、人気者なんだろうとは思うけど、いつも自信のある態度が少し苦手だ。
「粋……どうするの」
 夢花がすごく不安そうに問いかけてきたので、私はぶんぶんと首を横に振った。
「行くわけないよ。話すことないし」
「本当に? 本当は気になってるとか、好きとかない?」
「好きじゃない、好きじゃない」
 全力で否定すると、夢花はようやく納得したのか、「そっか、じゃあいいや」とほっとしたようにつぶやいた。
 私は、クレープの最後の一口を頬張ってから、「ありえないから安心して」と付け足す。
「そもそも私、男子に興味とかないし」
「ふふ、粋は二次元に生きてるもんね」
「まあ、高校生になってからでいいや。そういうのは」
 何気ない一言を添えると、夢花はその瞬間、すごくショックを受けたような顔をした。
 その反応を見て、また何か余計なことを言ってしまったのだろうかと、私はすぐに不安になる。
「……あのさ、粋。私、すごく変なこと言ってもいい?」
 少し緊張したような面持ちで、問いかけてくる夢花。