夢花の耳に届くまで噂されていたのか。
菅野君は野球部のエースでそこそこ有名人らしく、そんな彼に突然廊下で声をかけられ、出雲大社で一緒に大晦日を過ごさないかと誘われたのだ。他の男女も誘うからと。
私は突然のことに戸惑いつつも、大晦日は毎年、夢花の家族と一緒に出雲大社に行くと決まっているので、『先約があるから』と言って断ったのだ。
菅野がふられた、なんて誇張された噂が校内に広まり、今日一日私はとても居心地が悪かった。
「だって大晦日は、夢花と毎年一緒に行ってるじゃん」
「別に、そっち優先してもよかったのに」
珍しく夢花が機嫌の悪そうな態度を見せている。
どうしてそんな態度を取られているのか分からず、私はパタンと漫画を閉じて、夢花の方に向き直った。
「もし無理してるなら、私との約束は気にしないで」
「いや……、無理なんてしてないけど」
「私は好きで友達増やしてないだけだし。粋は人気者なんだから、気遣わずに他の人と行ってもいいのに」
「何でそんな話になってるの?」
何かクラスメイトによからぬことを言われたのだろうか。
そんな風に冷たく言われる理由が分からないまま、私は彼女の顔を覗き込む。
「私は、夢花と行きたいんだけど」
そうハッキリ伝えると、夢花は「ごめん」と小さくこぼした。
虫の居所が悪かっただけなのだろうか。
私は戸惑ったまま、彼女の言葉をじっと待つ。
「最近……、自分が分からなくなることがあって……」
「え?」
「粋は、私が何でよく少女漫画を読んでるか分かる?」
急な質問に、私は困惑した。
そんなこと、一度も考えたことはなかったし、そもそも理由なんてないものだと思っていたから。
固まっていると、夢花はまた「ごめん」と言って、スッと立ち上がった。
「今日はもう帰るね。大晦日は、一緒に行けるの楽しみにしてるから」
「え……、あ、うん」
「ちょっと調子悪いみたい。変なことばっか言ってごめんね」
眉をハの字に下げて、いつもみたいに優しく笑って手を振る夢花。
私は戸惑ったまま手を振り返し、彼女が部屋から出るのを見送った。
怒られているわけではなさそうだった。だけど、夢花は何か私に言いたげな顔をしていた。
私が新しい友達を増やしたから拗ねているのか。いや、でも、夢花はそんなことで腹を立てるほど子供っぽくはない。
菅野君は野球部のエースでそこそこ有名人らしく、そんな彼に突然廊下で声をかけられ、出雲大社で一緒に大晦日を過ごさないかと誘われたのだ。他の男女も誘うからと。
私は突然のことに戸惑いつつも、大晦日は毎年、夢花の家族と一緒に出雲大社に行くと決まっているので、『先約があるから』と言って断ったのだ。
菅野がふられた、なんて誇張された噂が校内に広まり、今日一日私はとても居心地が悪かった。
「だって大晦日は、夢花と毎年一緒に行ってるじゃん」
「別に、そっち優先してもよかったのに」
珍しく夢花が機嫌の悪そうな態度を見せている。
どうしてそんな態度を取られているのか分からず、私はパタンと漫画を閉じて、夢花の方に向き直った。
「もし無理してるなら、私との約束は気にしないで」
「いや……、無理なんてしてないけど」
「私は好きで友達増やしてないだけだし。粋は人気者なんだから、気遣わずに他の人と行ってもいいのに」
「何でそんな話になってるの?」
何かクラスメイトによからぬことを言われたのだろうか。
そんな風に冷たく言われる理由が分からないまま、私は彼女の顔を覗き込む。
「私は、夢花と行きたいんだけど」
そうハッキリ伝えると、夢花は「ごめん」と小さくこぼした。
虫の居所が悪かっただけなのだろうか。
私は戸惑ったまま、彼女の言葉をじっと待つ。
「最近……、自分が分からなくなることがあって……」
「え?」
「粋は、私が何でよく少女漫画を読んでるか分かる?」
急な質問に、私は困惑した。
そんなこと、一度も考えたことはなかったし、そもそも理由なんてないものだと思っていたから。
固まっていると、夢花はまた「ごめん」と言って、スッと立ち上がった。
「今日はもう帰るね。大晦日は、一緒に行けるの楽しみにしてるから」
「え……、あ、うん」
「ちょっと調子悪いみたい。変なことばっか言ってごめんね」
眉をハの字に下げて、いつもみたいに優しく笑って手を振る夢花。
私は戸惑ったまま手を振り返し、彼女が部屋から出るのを見送った。
怒られているわけではなさそうだった。だけど、夢花は何か私に言いたげな顔をしていた。
私が新しい友達を増やしたから拗ねているのか。いや、でも、夢花はそんなことで腹を立てるほど子供っぽくはない。